英国でエネルギー小売事業者の破綻が相次いでいる。天然ガス価格や卸電力価格の高騰が要因だ。供給を継続できなくなった事業者は過去2カ月間で10社に上り、計173万5千件の顧客が影響を受けた。クワシ・クワーテング・ビジネス・エネルギー・産業戦略相(BEIS相)は「経営危機に陥った小売事業者を救済することはない」と明言しており、リスク管理を怠った事業者の淘汰が進む。

 欧州は今年、深刻な天然ガス在庫不足に陥り、価格は歴史的な高騰をみせている。足元の英スポット天然ガス価格「NBP」は100万Btu(英熱量単位)当たり30ドル(3400円)を突破。卸電力価格も24時間平均で1キロワット時当たり約0.2ポンド(30円)の高水準で推移する。

 こうした状況が一部の小売事業者の経営を直撃した。国内顧客数58万件を抱えるアブロ・エナジーや同17万9千件のイグルー・エナジーなど、8月以降に中小規模の新電力10社が破綻した。

 エネルギー経済社会研究所の松尾豪代表取締役は「小売専業の破綻が多い。その中には(再生可能エネルギー100%の)『グリーン料金』を提供している事業者も含まれる」と指摘する。

 破綻した各社の顧客は、ガス電力市場監督局(Ofgem)の指定した小売事業者に引き継がれ、供給が継続される。また、電気・ガスの標準料金に上限が設定されており、過度な負担増は避けられる。

 英政府は需要家保護を最優先に掲げる一方、新電力の救済を強く否定する。クワーテングBEIS相は9月20日に議会下院で行った演説で、「失敗や不始末に対する報酬は一切あり得ない。劣悪なビジネスモデルで、調達価格の変動に耐えられない事業者への支援は、納税者が認めない」と強調した。

 英政府は天然ガスの必要量は確保できる見通しを示すが、冬本番に向けて天然ガス価格や卸電力価格はさらに上昇する可能性もある。価格変動リスクをヘッジしていない小売事業者は、遅かれ早かれ撤退を余儀なくされる。

電気新聞2021年10月12日