発電燃料である一般炭の価格上昇に歯止めがかからない。日本の調達の約6割を占めるとされる豪州炭の最近のFOB価格は1トン当たり一時170ドル(約1万8700円)を超えた。前年同時期の3倍超の水準で、9月に入っても高止まりは続くとみられる。専門家は「新型コロナウイルスなどで減産しても、一般炭需要がすぐに減るわけではない」と指摘する。一方、脱炭素の潮流を背景に新規炭鉱投資は減少し、供給量の大幅な増加も見込めない。需給の不均衡は続き、高止まり状況がしばらく継続するおそれがある。
急騰要因の第一は新型コロナによる減産だ。高品位炭生産地として知られる豪ニューサウスウェールズ州は感染拡大を食い止めるためにロックダウンを敢行中。豪州炭を補うインドネシアなども多雨や新型コロナ、事故などが影響して減産傾向にある。
新型コロナの発生源を巡る問題で悪化した豪州と中国の関係も価格に影を落とす。中国は昨年11月、一般炭の最大取引先である豪州からの輸入を停止。今年に入り、事故の多発などで国内生産量も減少し需給バランスが崩れた。結果、インドネシアやロシアなどからの大量調達に走り、こちらの価格が急騰した。一方、今年に入って需要が回復してきた日本などは豪州炭の優先的な獲得に動いたが、供給量は減少したまま。新型コロナに気候、中国の動向などが連鎖して現在の市況が生まれたのだ。
1トン160ドル超という値段は異常だ。秋にかけては電力需要が下がる傾向にあり、一般炭価格も多少は落ち着くとの見方もある。ただ、必ずしも楽観はできない。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の國吉信行・石炭開発課専門職は「需給や使用までのタイムラグを加味すると、今の時期に価格が緩んでこなければいけないが、思うように下がっていない」と現状を分析。「10~11月には冬に備えて需要が増加するので、それまでに価格が下がる局面がないかもしれない。このまま冬に突入するおそれがある」と話す。
脱炭素の潮流が強まる中で石炭への新規投資はしにくいが、需要はすぐには減らない。減産によって供給力が落ちた分、売り手有利の状況が続くとみられるのだ。「豪州のサプライヤーも今あるキャパシティーの中で生産し、売ろうとするだろう。石炭の需要が本格的に減る局面にならないと価格は下がりにくい」と國吉氏。
新型コロナ禍が終局を迎えたとしても、新規炭鉱開発などは考えにくく、需給の不均衡は続くだろう。一般炭の市況を見極めつつ、LNG(液化天然ガス)などを含めた適切な燃料調達の実施が今後一層求められそうだ。
電気新聞2021年9月2日
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