新電力の一部で大口顧客に対して、一般送配電事業者が提供する最終保障供給への切り替えを促す動きが出ている。卸電力価格高騰のあおりを受けて既存の小売り契約では逆ざやとなることから、顧客に“一時避難”してもらい、頃合いを見て再び契約を結ぶ意図があるとみられる。ルールの範囲内で可能な行為とはいえ、セーフティーネットである最終保障供給を収支改善や顧客のつなぎ止めに利用するやり方は、電力自由化の趣旨にかなっているのか疑問符が付く。

 最終保障供給は、小売電気事業者が急に撤退した場合などに、その顧客が新たな契約を結ぶまでの間も電気の供給を受けられるようにするための制度だ。一般送配電事業者は必要に応じて最終保障供給を行うことが義務付けられている。料金は旧一般電気事業者の標準メニューより2割高い。

 あくまで緊急避難的な制度であり、2013年の電力システム改革専門委員会報告書は、「需要家が最終保障サービスに過度に依存すること」を「想定するところではない」と記述。その後も基本的な認識となっている。
 
 ◇卸市場高騰で打撃
 
 昨年末から続く卸電力市場の価格高騰は、市場依存度が高い新電力の経営に大きな打撃を与えている。調達コストが跳ね上がったばかりか、購入価格と同額の預託金が払えないと市場からの調達自体ができなくなる。そこで、顧客に最終保障供給へ切り替えてもらえれば、当面は苦境をしのげる。さらに、他の小売電気事業者には乗り換えないように約束することで、状況が改善した後の契約再開を期待できる。

 電力関係者によると「ある新電力は、要請したタイミングで戻ってもらえるなら契約解除違約金は不要と言っている」という。また、市場連動型の料金契約を結んでいる顧客ならば、現状では最終保障供給の方が割安になるとも考えられる。

 こうした“一時避難”は顧客が同意している限り、ルール違反にはならない。もちろん、顧客が別の小売電気事業者に流出するリスク、市場価格の高騰が長く続くリスクもあり、もくろみ通りとなるかは分からない。過去の事例を踏まえ、「破綻した新電力が顧客を放り出し、一般送配電事業者が無契約のまま、貸し倒れを覚悟しながら供給するよりはましだ」(電力関係者)という見方も成り立つ。
 
 ◇自由化の本質逸脱
 
 ただ、卸電力市場の価格高騰などで最終保障供給も逆ざやになったとしたら、どうだろうか。新電力が負担するはずだったコストを、本来の趣旨であるセーフティーネットとは違う意図で一般送配電事業者に肩代わりさせることになる。

 電力関係者は“一時避難”について、「現時点では制度で許されている以上、モラルハザードとは言えないし、対策もできない」としつつ、「電気は不可欠な財。責任を持って事業を営む事業者による競争が自由化の本質ではないのか」と憤りを込めて指摘する。

電気新聞2021年1月28日