日本卸電力取引所(JEPX)の価格高騰に絡み、市場関係者から一部の新電力に対して、“モラルハザード”を懸念する声が上がっている。一部の新電力は小売り用の電気をインバランス補給に頼り、特定卸供給を受けた再生可能エネルギー電気をスポット市場で転売している疑いがある。インバランスも特定卸供給も対価の支払いは2~3カ月後で、その間は費用をかけずに小売料金とスポット市場での売電という二重の収入を得られる。これを悪用し支払い前に事業から撤退して踏み倒すのではないかという懸念だ。

 JEPXで電気を調達するには、買い代金と同額の預託金を2営業日後までに用意しなければならない。過去にない水準に達した今冬の価格高騰は、卸市場からの調達比率が高い新電力の資金繰りを急激に悪化させ、インバランスに頼らなければ事業が継続できない状況を生み出している。

 ただ、安定供給の観点から電気事業制度は同時同量が前提であり、インバランスをできるだけ抑える努力は当然求められる。意図的にインバランスに依存し、しかも精算までの時間差を悪用するのだとすれば深刻な問題だ。

 市場関係者は「真面目に同時同量を順守している事業者のことも考えて対処すべき」と訴える。
 
 

◇特定卸供給でも

 
 FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)電気の特定卸供給についても、同じような指摘が出ている。特定卸供給は、小売電気事業者が一般送配電事業者を介してFIT電気を購入する仕組み。電気の受け渡しと支払いには、やはり数カ月の時間差がある。

 モラルハザードが疑われるのは、小売り用の電気が不足しているにもかかわらず、FIT電気をスポット市場に転売する新電力だ。いつまで高値で売れるかは分からないにせよ、支払いを行うまでは費用ゼロのまま「ぬれ手に粟」の状態が続くことになる。

 こうした行動を取る新電力が、意図的かどうかは別にして経営破綻し、インバランス、特定卸供給の支払いを行わないと、一般送配電事業者は必要な費用を回収できない。このリスクへの対応策としては、新電力から託送約款に基づく保証金を預かることも考えられる。
 
 

◇違反措置難しく

 
 ただ、現時点の行動がルールから完全に逸脱しているわけではなく、予防的に何らかの措置を講じるのはハードルが高いようだ。成り行き次第では、競争市場の健全な発展にとって大きなマイナスとなりかねない事案だけに、市場関係者は規制当局の動きにも強い関心を寄せている。

電気新聞2021年1月22日