村上 拓哉氏

 米国とイランの停戦については、今後双方から停戦合意違反と呼べる事案が発生したとしても、対応を抑制できるかが焦点となる。今回の暫定的な停戦合意は明確な停戦条件が明示されておらず、詳細は十分に詰められていない可能性が高い。グレーな事案が多発すれば、停戦状態は容易に崩壊するだろう。

 イラン側の発表によると、ホルムズ海峡の通航についてはイラン軍と調整した上で技術的な制約も考慮に入れつつ、通航が可能になるとしている。イランが海峡の通航料を徴収する意向を示していることを考えると、国際法違反だと主張する立場の国々では、これが航行正常化の大きな障害になることが予想される。

 特に、ペルシャ湾内に取り残されている船舶の脱出に関しては非常事態の緊急措置として認められる可能性がまだあるが、新たな船舶がホルムズ海峡の内側に入っていくにはリスクが高いと判断されるのではないか。2週間という時限的な期間ではなく、停戦状態が安定的に継続する見込みが立たない限り、海運の正常化にはつながらないだろう。

 米国とイランは仲介国のパキスタンで、包括的な停戦合意に向けた交渉を実施する予定。だが、双方が要求している停戦条件は大きく乖離しており、2週間という短い期間で合意に至るのは困難を極める。いずれも国内政治上の理由から、相手国に大きな譲歩を示すことは難しいだろう。交渉が決裂した場合は軍事攻撃が再開され、ホルムズ海峡の実質的な封鎖も再度強化される可能性が高い。

 短期決戦を本来想定していた米国は継戦意欲が乏しく、ガソリン価格の高騰や中間選挙への影響を考慮して、早々にイランとの戦争を手じまいにする動機が強い。今回の停戦合意でイラン側が提案した10項目を交渉の土台に据えることに合意したように、妥協する余地は一定程度あると考えられる。(談)

◆メモ
 むらかみ・たくや=在オマーン日本国大使館や中東調査会、三菱商事での勤務を経て、2022年1月から現職。ペルシャ湾岸地域の安全保障を専門とする。

電気新聞2026年4月10日