海外石油3社のAI(人工知能)活用を紹介する。世界最大のサウジアラムコは国策の「AI輸出」に向け、産業用LLM(大規模言語モデル)を開発、ソブリンAI(外国に依存せずAIを開発・運用・管理する仕組み)にまい進する。北米最大のエクソンモービルはデジタル油田(油田運用のDX)の開拓者だ。業界最大の油田クラウド化で操業をAI最適化する。欧州最大のシェルは石油AIの標準化「OAI(オープンAIエネルギーイニシアチブ)」を主導する。自社開発のAIを囲い込まず、他社も使える業界標準プラットフォームを志向する。

【サウジアラムコ】
サウジアラビア王国のAI戦略は、資源依存から脱却し、AIによる知識集約産業に転換することだ。サウジアラムコは王国最大企業として、かつ世界最大級の物理アセットとデータ量を保有する企業として、王国のAI戦略を担う。同社はエネルギーのリーダーだが、AIでもリーダーになれると自負する。
AIはエネルギーと同じ戦略物資と位置付け、ソブリンAIを志向。これまでに400以上のAIアプリを実装し、収益実現価値は年間18億米ドルに上る。中核となるのが世界初の産業用LLM「メタブレイン」だ。
メタブレインは石油事業90年間の7兆データを学習させたクローズドLLMだ。上流(石油探査や掘削の最適化)から下流(石油製品の需要予測、価格動向分析)までの経営および現場の意思決定を高速化する。自国内のAIデータセンターで稼働し、国家機密扱いのデータは100%自国内に保管する。また政府系AI企業HumainにAI資産を統合する計画だ。
ここで、掘削最適化の事例を紹介する。従来の掘削計画は、地質学者が数カ月かけて地震波データを解析、作成していた。メタブレインはこれを数日・数時間に短縮する。また、掘削中のセンサーデータをリアルタイム解析し、掘削機の回転数を最適化する。掘削コストと事故リスクを劇的に低減させた。
メタブレインを支えるのは3つの組織。「4IRセンター」はデジタル司令塔として、日々100億の運転データを解析、現場に操業最適化指示を出す。「SAIL」はAI研究所で、数十人の博士人材が大学や研究機関と最先端AIを研究。またAIスタートアップの技術を実装する役目も持つ。主なパートナーは米SambaNova(AI学習を効率化するRDUチップ)、米Groq(超高速推論)LPU、米Cerebras(世界最大級AIプロセッサ)、加Cohere(エンタープライズ向けLLM)で、メタブレインに組み込まれている。「アラムコデジタル」はメタブレインの外販部隊として、数百人のAI技術者がエネルギー企業などに「AI輸出」を担う。
サウジアラムコはAI技術者6000人を育成する計画だ。そのために海外AI人材獲得プログラムを持つ。給与は業界標準の2割増し、所得税ゼロで、最先端のAI環境で働けるのが特徴だ。日本のAI人材の流出も始まっている。
【エクソンモービル】
エクソンモービルは2000年代にAI掘削で油井1本レベルの掘削高速化を実現。10年代に米パーミアン盆地の数千本の油井の操業をクラウド化したデジタル油田を商用化した。AI解析により生産量の予測やメンテナンス時期を最適化、生産効率を5%以上向上させた。
精製や化学プラントでは、従来の閉鎖的な制御システムを打破するオープン化とAI融合を進める。25年、世界初の商用規模「OPA(オープンプロセスオートメーション)」を稼働させた。AIアプリやハードを「プラグ&プレイ」で追加できる仕組みでAIによる高度な制御を迅速に実装可能にした。
【シェル】
シェルは「Shell.ai」戦略の下、世界中の資産にAIを大規模展開。石油プラントなどにある1万台以上のポンプといった機器をAIで常時監視する。故障の兆候を数カ月前に検知、非計画停止を回避することで年間数億ドルのコストを削減する。これを支えるのは数百人の専門家集団(データサイエンティスト、AI技術者)だ。
21年、世界初のエネルギー業界特化型AIエコシステム「0AI」を立ち上げた。自社だけでAI技術を抱え込まず、業界全体の標準化を推進している。
電気新聞2026年1月26日





