梅村 ライバルの米ゼネラル・エレクトリック(GE)もデジタル化には力を入れている。

 藤田 シーメンスは2017年から本格的に戦略製品「MindSphere(マインドスフィア)」(キーワード解説)を市場投入する。これはソースコードを公開する「オープンアーキテクチャー」であり、導入が容易な「プラグ&プレイ」を採用するクラウドデータプラットホームだ。今後はこのプラットホーム上で、発電所の運用分析、遠隔監視、系統管理などお客さまが自分の希望にあった運用を簡単に構築できるようになる。

 

◆最適運用でコスト削減/藤田氏◆

 

 梅村 より具体的には、シーメンスのデジタル技術を使うと、どんなことができるようになるのか。

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 藤田 発電所の建設では、設計を3Dで行い、モデリングやシミュレーションも自動化することで、建設の期間とコストを削減できる。設計変更も迅速に反映できる。他産業では、ロールスロイスがジェットエンジンの設計変更で、工場での対応期間を1週間から1時間に短縮できた。

 発電所運用の面では、タービンやボイラーなどから得られるビッグデータを分析することで、効率向上や予防保全を実現できる。さらに「バーチャルパワープラント」と呼んでいるが、電気事業の経営にまでデジタル化を発展させれば、発電から消費まで一気通貫の最適運用によるコスト削減も可能だ。

 

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◆メーカー・ユーザー連携を/佐野氏◆

 

 梅村 日本の火力事業はデジタル化が遅れているのか。

 佐野 スタートに立ったばかりというのが現実だ。まだ1合目にも達していない。現在は発電所ごとにしっかり運用し、発電した電気をお客さまに届けるという形。これからはデジタル技術を用い、多数の発電所の連携によって最経済運用を実現するといった動きも広がっていくだろう。

 梅村 どう遅れを取り戻していくのか。

 佐野 メーカーとユーザーの連携が一つの解になるだろう。デジタル化は、メーカーとユーザーの垣根を融解させていく。両者がチームとしてデジタル化に取り組めば、安い電気を安定的に国民に供給し続けられるはずだ。

 梅村 メーカーとユーザーの関係は大きく変わってくる。

 藤田 より密接になっていく。メーカーの取り組みだけで可能な効率化余地は限られる。実際にデジタル技術を現場に導入(キーワード解説)する際には、メーカーとユーザーの協力態勢が求められる。

 梅村 デジタル化の推進にあたって火原協が果たせる役割も大きいのではないか。

 佐野 デジタル化の先進事例を紹介するような情報提供のプラットホームでありたい。加えて、協会外への情報発信も重要だ。最近は既存の電力会社だけではなく、新規参入者やメーカーも積極的に会員に勧誘している。できるだけ幅広い意見を集約し、デジタル化に伴って必要になる規制改革などを国などに発信していきたい。

 藤田 火原協を通じてデジタル化のノウハウを共有すれば、各事業者が無駄な努力を省ける部分もあるだろう。

 

◆先進事例の情報発信に力/佐野氏◆

 

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 佐野 経済産業省・資源エネルギー庁も「電力インフラのデジタル化研究会(E―Tech研究会)」を始動させた。昨年11月から、発電、送配電、小売事業ごとの電力インフラについてIT技術を活用してデジタル化を進める検討に着手している。オールジャパンでビジネスを展開していく上で貴重な成果が得られるのではないか。

 梅村 政府は電力インフラの輸出にも力を入れている。

 佐野 電力インフラの輸出にあたって、火力事業者がシーメンスなど外資系メーカーと組む形のオールジャパンもあり得る。すでに海外でシーメンスの設備を使っている事業者も少なくないはずだ。

 梅村 東京電力フュエル&パワー(F&P)と中部電力の合弁会社JERAも海外事業の拡大を掲げている。

 佐野 まだ発展途上の段階だが、企業価値を高めるために海外市場に打って出るのは当然。国内市場だけでは成長余地が限られてしまう。

 梅村 シーメンスは外資系だが、日本とは江戸時代から関わりがあると聞いた。

 藤田 江戸幕府にシーメンス製の電信機を贈ったという歴史がある。日本での130周年を機に、日本のお客さまの経営効率化などに一層貢献していきたいと考えている。

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