◆デジタル化で描く未来像◆

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 独シーメンスは今年、日本での事業開始から130周年を迎える。今回、梅村英夫・日本電気協会新聞部長を司会に、シーメンス日本法人の藤田研一社長と火力原子力発電技術協会(火原協)の佐野敏弘会長(東京電力フュエル&パワー社長)が対談。デジタル化など火力事業の最前線について語り合い、火力事業者・メーカー間の新たな関係性にまで話題は広がった。

 

◆分散化が世界的傾向に/藤田氏◆

 

 梅村 世界のエネルギーのトレンドをどう捉えているか。

火力原子力発電技術協会会長・佐野敏弘氏(東京電力フュエル&パワー社長)
火力原子力発電技術協会会長・佐野敏弘氏(東京電力フュエル&パワー社長)
 佐野敏弘氏<さの・としひろ>77年早大理工卒、東京電力入社。執行役員・火力部長、常務・技術開発本部長、常務執行役・フュエル&パワー・カンパニー・プレジデントなどを経て、16年4月東京電力フュエル&パワー(F&P)社長。16年6月には火力原子力発電技術協会会長にも就任。山梨県出身、64歳。

 佐野 予測するのが非常に難しいが、一つ言えるのは、エネルギーは国家戦略と密接な関係を持つということ。各国・地域がそれぞれの戦略に基づいてエネルギーの在り方について考えていくことになるだろう。

 藤田 電力インフラが足りない国や再生可能エネルギーに対する国民の関心が高い国など、確かに国によってエネルギー事情は大きく異なる。ただ、一つ傾向として挙げられるのは分散化。再生可能エネはこれまでに190億キロワットが導入され、近年の年間投資額は約28兆~30兆円に拡大している。再生可能エネを含む分散化電源は、新規電源投資の60%以上を占めている。

 梅村 日本でも太陽光や風力など再生可能エネの導入量が大きく膨らんでいる。

 藤田研一氏<ふじた・けんいち>83年関西大社会卒、アルプス電気入社。シーメンスVDOオートモーティブ代表取締役兼CEO(最高経営責任者)、独シーメンス・エナジーセクター事業開発ディレクター・日本事業開発担当、シーメンス・ジャパン(現シーメンス)専務執行役員・エナジーセクターリードなどを経て、16年10月から現職。「グローバル・ビジネス重点戦略ノート」(ダイヤモンド社)などの執筆も。大阪府出身、57歳。
シーメンス日本法人社長・藤田研一氏
シーメンス日本法人社長・藤田研一氏

 佐野 電気事業の制度改革で欧州は日本の10年くらい先を行く。欧州のように、日本でも再生可能エネの導入拡大が進むことは確実。日本の電気事業者は、欧州の教訓をしっかり踏まえて活動していく必要がある。

 梅村 欧州の中でもドイツは特に再生可能エネに熱心だ。

 藤田 太陽光と風力の出力は天候に大きく左右されるから、需給調整に苦労している。ガス火力は需給調整の役割も果たすが、再生可能エネの急速な拡大に伴って価格競争力を失っている。メリットオーダーの中で、石炭火力は何とか運転できているが、ガス火力は厳しい状況だ。

 

◆ベストミックスが必要/佐野氏◆

 

 佐野 欧州はパイプラインで各国が結ばれている。洋上風力を導入しやすい点なども含め、日本とは事情が違うから、欧州の事例を日本が全て参考にできる訳ではない。日本にとって最も重要なのはベストミックス。ベストミックスが安定性、経済性の確保につながる。

 梅村 日本では電力需要が伸び悩む中で、今後どこまで火力の建設が進むのだろうか。

 佐野 現在計画されている火力建設案件の全てが実現する訳ではないだろう。パイが限られる中で建設計画を実現していくためにはコスト競争力が鍵を握る。

 藤田 シーメンスなど大手3社はガスタービンの熱効率を巡って激しく競い合っているが、大切なのはガスタービン単体の性能に加え、運用も含めた発電所全体のコスト競争力(キーワード解説)だ。

<司会>日本電気協会新聞部長・梅村英夫
<司会>日本電気協会新聞部長・梅村英夫

◆安定供給と効率化の両立へ/藤田氏◆

 

 梅村 発電所全体の効率性を高める上ではデジタル化も重要になる。

 藤田 日本では電力システム改革が進展していくから、電気事業者は企業経営の最大効率化を迫られるだろう。安定供給と企業経営の効率化を両立させるために欠かせないのがデジタル化(キーワード解説)だ。

 佐野 同感だ。国として成長を遂げるために、経済性、環境性に優れた電気を安定的に届けるという方向性はぶれてはならない。電力システム改革が進む中でも、我々は安定供給の旗を決して降ろさない。その実現に向けてはデジタル化が一つのキーワードになる。

 

◆IoTなど重要性増す/梅村◆

 

 梅村 IoT(モノのインターネット)などドイツはデジタル化で先行しているイメージがある。シーメンスの取り組みは。

 藤田 シーメンスはものづくり企業のイメージが強いかもしれないが、実はソフトウエア事業で世界13位の規模を誇る。欧州では独SAPに次ぐ2位だ。約35万人の従業員のうち約1万7500人がソフトウエア技術者であり、中央研究所は数百人のセキュリティーの専門家を抱える。その中には元プロハッカーもいる。

>>【特別企画】デジタル化がもたらす大変革-火力事業はこう変わる!(2)に続く