[ウクライナショック]識者の見方/山地 憲治氏

3E達成へ時間軸をより長く


山地 憲治氏

 

山地 憲治氏
地球環境産業技術研究機構(RITE)理事長・研究所長


 

 ロシアのウクライナ侵攻は世界史の大きな事件で、エネルギーにとっても1970年代のオイルショックに匹敵する大事件だ。タイミングも悪く、天然ガス価格が上昇し、ドイツが2022年中に原子力廃止を計画する中で厳しい事態に直面した。いま最も思うことは、エネルギー政策の基本である3つのEの重要性が、日本だけでなく世界でも高まっていることだ。

 エネルギー政策基本法が02年に制定されてから3Eのバランスは課題だったが、当時は経済効率性は自然と達成されるもので、エネルギーセキュリティーと環境を政策で後押しするという理由で二等辺三角形に例えられていた。90年代に地球温暖化が叫ばれはじめ、最近のカーボンニュートラルにより、さらに環境が重視されるようになった。ウクライナ危機によりエネルギーセキュリティーの重要性が強く認識され、環境とのバランスを復活させる意味ではよい面があった。

 環境重視の中で再生可能エネルギーへの関心が集まったが、もっと視野を広げるべきだった。

 化石燃料は二酸化炭素(CO2)を出さなければよい。水素やアンモニア、合成燃料にCO2回収・貯留(CCS)を組み合わせ、ゼロエミッション燃料をつくることが大切だ。原子力の維持も大事なポイントだ。

 化石燃料価格は昔から変動している。今後も高止まりし続けるとは考えにくい。米シェール産業がいま懸念しているのは、将来の価格下落だ。中東産油国の原油も自国政治の安定化のために税優遇しており、価格の下げしろはたくさんある。足元の化石燃料高騰を理由に再エネを推進するのはおかしい。

 温暖化対策に要求される時間軸と政治や戦争の時間軸はかなり異なる。時間軸を長くしながら3Eをバランスさせることが必要だ。

 エネルギーには様々な備えがいる。ウクライナ危機により欧州が方針をどう変えるかや、米国の中間選挙が今後の動向で注目点となるだろう。
(聞き手・匂坂 圭佑)

 <やまじ・けんじ> 1977年東大大学院工学系研究科修了、電力中央研究所入所。21年から現職。経済産業省や環境省で多くの審議会委員を務める。エネルギーシステムに関する著書や論文多数。

(談)


電気新聞2022年3月25日