[ウクライナショック]識者の見方/東郷 和彦氏

ロシアとの「冬の時代」 覚悟を


東郷 和彦氏

 

東郷 和彦氏
元外務省欧亜局長


 

 戦争が長引くほど、国際的な経済制裁や批判は厳しくなる。プーチン氏にとっては確かに痛手だが、深いところでロシア人の心をゆさぶるのは、戦争で死んだ息子の棺(ひつぎ)に触れた母の嘆きであり、彼が戦っている相手が、スラブの兄弟国家であるウクライナであることの、耐えがたい矛盾である。

 しかし、4月中旬の時点でプーチン氏の指導力はまだまだ強い。いったん戦争が始まると、双方が「ここまで領土を取れば戦争目的を達成した」と思わない限り、戦争は終結しない。和平交渉では興味深い議論が行われているが、戦場における領土の取り合いが収まらない限り、接点が見え始めた和平合意が動きだすことはない。

 ソ連崩壊後、ロシアは混乱を続け、その地位は低下した。プーチン氏は大統領就任直前の1999年末「千年紀のはざまにおけるロシア」という論文を発表した。小さく弱くなったロシアを「安定して、強くて豊かな国」にすることを宣言した。最初の12年でおおむねその目標を達成、次の12年でそういう「尊敬されるロシア」を欧州の安全保障の中心に据えようとした。

 プーチン氏から見れば、21年1月、ウクライナのゼレンスキー大統領とアメリカのバイデン大統領が並び立った時から、ロシアの政策意図を拒否するシグナルが出された。

 だからといって、なぜ、あそこまでの戦争に踏み切ったのか。当初は短期決戦で勝てると思い込み、そこに致命的な失敗があった。ウクライナは軍事力、情報力、作戦遂行能力を蓄え、しかも欧米の惜しみない支援を受けている。

 今後、世界は米中の対立軸が一層顕在化し、ロシアは中国に一番近い核大国として、世界のブロック化の中で生きていくだろう。今回アメリカと完全同調歩調をとった日本は、かつてない冬の時代を迎えることになる。この戦争が終わった時に「引っ越しのできない隣人」としてのロシアとの関係を再考する時期が来るのだと思う。
(聞き手・論説副主幹 藤原 雅弘)

 <とうごう・かずひこ> 1968年東京大学教養学部卒、外務省入省。ソ連邦課長、在ロシア連邦日本大使館次席公使、欧亜局長などを歴任。オランダ大使を最後に2002年退官。現在、静岡県立大学グローバル地域センター客員教授。

(談)


電気新聞2022年4月15日