[ウクライナショック]識者の見方/田中 伸男氏

再稼働、規制委任せは無責任


田中 伸男氏

 

田中 伸男氏
元国際エネルギー機関(IEA)事務局長


 

 欧州は思った以上に危機感を共有している。ドイツが武器を供与したり、中立国のフィンランド、スウェーデンがNATO(北大西洋条約機構)加盟を検討したり、永世中立国のスイスですら米欧の経済制裁に加わっている。これまでは考えられなかった。

 欧州が結束して危機感を非常に強く持っていることは、エネルギー市場にも大きなインパクトを与える。欧州全体の石油・天然ガス、トータルのロシア依存度は約3割だが、ドイツは6割くらいある。「ノルドストリーム2」が稼働していれば、8割になっていたはずだ。

 欧州は今後、ロシアへのガス依存度を極力減らす。ロシアと新たな契約は結ばず、ドイツがLNG基地の建設を決めたように、価格が高くても調達先を多様化する大きな流れが動き始めている。

 同時に、再生可能エネルギーに加速度的に資金を投じ、持続可能性とエネルギー安全保障の両方を高めようという議論がある。ベルギーが閉鎖予定の発電所の稼働延長を決めるなど原子力への前向きな姿勢も強まる。東欧にはとりあえず石炭との議論がある。危機をきっかけにエネルギーポートフォリオの大きな転換が始まった。

 「サハリン1、2」の事業が日本のエネルギー安定供給上、重要という岸田政権の認識は正しい。撤退しても、ロシアは痛くもかゆくもない。ただ、新たな投資や輸入はロシアを利するだけだからやめた方がいい。

 今後、日本がLNG輸入に対するプレッシャーを減らすには、原子力発電所の再稼働がすごく重要だ。安全性が確認された発電所は極力、速やかに再稼働を進めるべきだ。エネルギー安全保障上のリスクは高まっている。政治的決断が要る。原子力規制委員会任せにするのは無責任だ。

 原子力発電所の再稼働を進めれば、その分LNGを余らせることができる。余ったLNGは欧州に回す。再稼働は短期的な貢献にもつながる。世界が日本に求めているのは、そういうことだ。
(聞き手・論説主幹 日暮 浩美)

 <たなか・のぶお> 1972年東京大学経済学部卒業後、73年通産省(現経済産業省)入省。国際経験が豊富で、2007年9月から11年8月まで、欧州出身者以外で初めて国際エネルギー機関(IEA)事務局長を務めた。

(談)


電気新聞2022年3月25日