[ウクライナショック]識者の見方/高井 裕之氏

脱炭素より「脱ロシア」優先を


高井 裕之氏

 

高井 裕之氏
国際ビジネスコンサルタント


 

 1990年代に始まったグローバル化は「プーチンショック」で崩壊した。貿易戦争を始めた「トランプショック」がまずあり、人、モノの移動が制限された「コロナショック」が起き、いや応なしに世界は分断された。

 トランプ氏が去り、ワクチンの普及でポストコロナが視野に入った。再びグローバル化の時代に戻るだろうと世界が考え、経済が復活する矢先に起きたのがプーチンショックだ。

 グローバル化は終焉を迎えたと言っていい。ビジネスを組む際グローバルに考えると、とんでもないリスクにさらされてしまう。とくにエネルギー。日本は海外から運んでくるしかない。グローバルに考えないとすると、まずは自給自足、地産地消できるものをコストをかけ、ある程度リスクをとって進める。

 再生可能エネルギーを最大限追求する。原子力は安全性が確認されたプラントから再稼働していく。ただ、それだけでは電力、ガスの需要は賄えない。やはり、LNGをフル活用せざるを得ない。

 昨年のCOP26で脱炭素を絶対視する雰囲気になったが、今は「脱ロシア」が浮上した。なかなか両立できないと思う。プーチン氏は場合によっては「核」に手をつけかねない。ここは脱炭素は後回しにし、脱ロシアを優先しなければならない。

 仮にロシア産の原油輸出が止まっても、米国のシェールオイル増産やOPECの余剰キャパシティーなどの代替策がある。ウクライナ危機で世界経済の減速は避けられず、需要も落ちる。プーチンショックの悪影響を心配する必要はない。

 問題は天然ガスだ。ロシア産の代替は相当難しい。欧州は脱ロシアを指向する。当面、LNGしか解決策はない。LNGのスポット市場にアジア勢に欧州勢が加わり、今年の春先以降、争奪戦が起きるのではないか。LNGへの投資は脱炭素の流れの中で、相当スローダウンしている。日本だけでなく、世界的にLNGへの投資を急がないといけない。
(聞き手・論説主幹 日暮 浩美)

 <たかい・ひろゆき>1980年神戸大学経営学部卒、住友商事入社。エネルギー本部長、ワシントン事務所長などを経て2020年6月退職。現在は国際ビジネスコンサルタントとして活躍。エネルギー市場に精通する。

(談)


電気新聞2022年3月25日