[ウクライナショック]識者の見方/久谷 一朗氏

エネ自給率向上に原子力必須


久谷 一朗氏
 

久谷 一朗氏
日本エネルギー経済研究所 戦略研究ユニット担任補佐 国際情勢分析第1グループマネージャー 研究理事


 

 今回のロシアのウクライナ侵攻で明確に言えることは、ロシアの凋落(ちょうらく)が加速するということだ。これまで一枚岩になれなかった欧州も、今回は一体で「脱ロシア」を宣言し行動に移している。仮にロシアが戦争に勝ったとしても、国際的なエネルギービジネスにおいては厳しい状況が続くことになるだろう。

 今後中国がどう出るかがポイントだが、これは読めない。ただ、中国のエネルギー政策は日米欧と大差はない。異なるのは、目標達成にトップダウンの強力な仕組みがあることで、中国方式の「脱炭素」ビジネスをアジアやアフリカに売り込んでいく戦略を練っているだろう。日米欧とは異なる投資形態、アプローチが出てくる可能性があるだろう。

 欧米メジャーがロシアでのエネルギー事業から撤退した後に、中国が入ってくる可能性は一部であるかもしれないが、限定的だと見ている。ロシアからのエネルギー供給に関する制裁が今後強化されるとしたら、中国が権益を持ったとしても世界で売ることができないからだ。

 日本が取るべき道は石油危機以来のエネルギー自給率向上の取り組みを引き続き進めるということに尽きる。

 そのためにはやはり、既設原子力発電所の再稼働を進めるべきだ。短期的にエネルギー自給率を上げるには原子力しかない。

 今後、エネルギー安全保障の議論がますます高まることが予想される。ただ気を付けなければならないのは、欧米と中露で再び「東西冷戦」の構造になり、両陣営の争いがエスカレートしていくことだ。これは日本にとって望ましくない。

 日本としてできることは限られているが、できるだけエネルギー面で独立していることが基本となろう。化石燃料を使う限り、完全に自立することはあり得ない。蓄電池などの技術開発に期待するところはあるが、当面は、再生可能エネルギー、グリーン水素、原子力をバランス良く使っていくことが重要になるだろう。
(聞き手・論説委員 山田 雄二郎)

 <くたに・いちろう>  1995年、早大院機械工学修了、日本鋼管を経て、2007年、日本エネルギー経済研究所入所。14~15年度にウクライナのエネルギーマスタープラン策定支援に携わった。専門はエネルギー安全保障やアジアを中心とした地域情勢。

(談)


電気新聞2022年4月5日