[ウクライナショック]識者の見方/北村 滋氏

社会基盤事業の強靱化が重要


北村 滋氏

 

北村 滋氏
北村エコノミックセキュリティ代表 前国家安全保障局長


 

 昨秋から緊張が高まっていたが、ロシア軍が本格的に軍事侵攻するとは正直予想していなかった。プーチン大統領はすぐに親露派政権を擁立できると思っていただろうが、当初考えていた通りに進んでいない。ウクライナの激しい抵抗が前進を阻んでいる。

 日本は同盟国などと足並みをそろえる形でロシアに経済制裁を行わなければならない。一方、サハリン1、2では、日本の国益をよく考える必要がある。

 英シェルはサハリン2から撤退するが、中国石油天然ガス集団(CNPC)がその穴埋めをするので効果的な経済制裁にはならないだろう。仮に三菱商事や三井物産が撤退しても、中国企業が利益を得るだけだ。中国は近隣のLNG基地を増やしたいだろうから、まずサハリン2の権益を狙うのは間違いない。米エクソンモービルもサハリン1の撤退に向けて操業を停止すると言っているが、本当に撤退するかはもう少し時間をかけて見る必要がある。エネルギー政策には長期的視点が重要。ムードに流されず冷静な判断が必要だ。

 エネルギー供給先の多角化は日本の国是。もし他の調達先を見つける前に撤退し、原子力発電所の再稼働もできなければ国民生活に支障が生じる。エクソンのような対応も一つの考え方だ。

 燃料価格が高騰する中では原子力の稼働率向上が求められる。安全性は非常に重要で、東京電力福島第一原子力発電所事故を契機に厳しい規制基準が定められた。テロ対応も含めたハードウエアの強化にも取り組んでいる。審査をクリアしたプラントから再稼働をしていくべきだ。

 現在、経済安全保障推進法案の国会審議が進んでいる。法案は「サプライチェーンの強化」「基幹インフラ」「先端技術の官民協力」「特許非公開」の4本柱で構成。基幹インフラではサイバー攻撃に備えた事前審査などが盛り込まれた。サイバー攻撃を伴う「ハイブリッド戦」が現代戦の定石となる中で、社会基盤事業の強靱化は今後さらに重要になっていくだろう。
(聞き手・旭 泰世)

 <きたむら・しげる> 東京大学法学部卒、1980年警察庁採用。警察庁警備局外事情報部長、内閣情報官などを経て19年9月に国家安全保障局長兼内閣特別顧問に就任。21年7月退官。現在は経済安全保障政策に関する調査や情報提供を手掛ける。

(談)


電気新聞2022年3月25日