[ウクライナショック]識者の見方/田中 浩一郎氏
米国一極支配の崩壊はここ20年で徐々に進行した。一連の事態はこの新たな世界秩序の表出で、エネルギー情勢と中東支配、いずれの切り口でも明白だ。
米国は2019年からエネルギーの純輸出国となり立場は大きく変わったが、西側全体ではロシアへのエネ依存度をむしろ高めてきた。ウクライナを巡る西側とロシアの駆け引きは昨日今日の話ではなく、対露依存を減じる手を打つ時間は十分にあったはずだが、欧州は脱炭素に向かった。安価で便利という大陸パイプラインの強みは『ロシアへの信頼』と表裏一体なのだが、何を読み違えたのか。冷戦期以降、西側が全面的にロシアを信頼したことなどなく、米国の動向も踏まえた判断の結果が最適解ではなかった、ということかもしれない。
日本も同様で、石油危機を経て脱中東、脱石油依存を掲げたが原油は中東依存が9割超のまま。中東や中国を地政学リスクとしてきた一方、中東の代替にロシアを選択肢とした判断はどうか。反省に立ち、足元にエネ安全保障を据えて長期の政策を再構築するしかない。非常に複雑で難しく、導いた最適解が30点程度のものでしかない可能性もあるが。
中東は現況を冷ややかにみている。域内紛争が比較的落ち着く中、米国の傘の必要性が薄れ、親米国家の足並みがそろわない。むしろ油価高騰は脱炭素化への意趣返しと感じている。資源投資を急速に引き上げてきた西欧社会に対する不信感は強い。また今回の軍事侵攻では中東は武器供給側に回るなど、国際社会における立ち回りも変わってきている。
変化の局面としては、中間選挙を控えた米国が油価引き下げに向けイラン核合意を急ぐというのもなくはないが、サウジアラビアとUAE、ベネズエラとの増産確約が前提。トルコにも注目しており、NATO加盟国で軍事侵攻を批判しているが直接交渉を仲介、両国も受け入れている。今後の東地中海、西アジア、環黒海の政情やエネ情勢を読んでの機敏な動きとみている。
(聞き手・編集局長 円浄 加奈子)
<たなか・こういちろう>1988年東京外国語大学大学院修了。外務省での在外公館勤務、国連特別ミッションなどを経て、06年日本エネルギー経済研究所中東研究センター長。国際情勢、エネ安全保障について考察・発信。現職は17年から兼務。
(談)
電気新聞2022年4月15日