[ウクライナショック]識者の見方/林 恩廷氏

極東の安保、日韓連携が不可欠


林 恩廷氏

 

林 恩廷氏
韓国国立公州大学校 国際学部 副教授


 

 ロシアのウクライナ侵略は東アジアにおける安全保障の意識も覚醒させた。中国による台湾の武力統一をはじめ、韓国の戦時中を知る世代は北朝鮮が侵攻してくる脅威を想起したのではないか。ロシアのやり方を見て、若い世代には大統領選挙でもあらわになったフェアネス(公正)を求める意識がより高まっている。

 極東アジアの安全保障には「自由、人権、民主」など価値観を共有する日本、韓国、米国の緊密な連携が必要だ。中でも冷え切った日韓関係の修復が不可欠になる。新大統領に就く尹錫悦氏は日本との関係改善に意欲を示しているが、5年ぶりの保守政権は少数与党であり、舵取りが難しい。大統領執務室を青瓦台から移転させる方針を表明したが、疑問視する声も出ている。日本との関係改善も時間がかかるかもしれない。「徴用工」など問題は山積みだが、それを超えて互いに歩み寄る姿勢が必要だ。

 バイデン米大統領は社会の分断の中で就任したこともあり、方針に揺らぎも見える。アフガニスタン撤退は正しかったと思うが、対中国を考えれば、ロシアへの対応は異なるやり方があったと思う。ウクライナを見て、核の保有、共有の議論も沸き起こっている。抑止力に一定の効果はあるが、核不拡散の観点から賛同し難い。

 エネルギー情勢も一変した。LNGなど資源獲得はより厳しさを増すだろう。日本と韓国は資源に恵まれない共通点があり、エネルギー安全保障を考えれば将来にわたり原子力発電を維持する必要がある。技術的にも進化しており、小型炉導入などにも積極的に取り組むべきだ。

 日韓の若い世代は映画、アニメ、芸能など文化交流を通じて価値観を共有し、信頼を築く土壌が培われている。高齢化、人口減など課題先進国、日本の姿は韓国の未来像でもある。互いに課題を共有し、解決策を見いだし、世界に発信できるような信頼関係が築かれるといい。これが極東アジアの安全保障につながることを期待している。
(聞き手・主筆 佐藤 貞)

 <イム・ウンジョン> 1978年生まれ、東京大学、ソウル大学で学び、米コロンビア大学で修士課程、米ジョンズ・ホプキンス大学ライシャワー東アジア研究センターで博士課程を修了。専門は国際安全保障政策や原子力分野の国際協力。

(談)


電気新聞2022年4月5日