「行ってきます」と言うだけで照明が落ち、窓が閉まり、鍵が掛かるスマートホーム。昨年12月、アマゾン、グーグル、アップルという米国の巨大IT企業が、スマートホーム規格を策定するべく、家電をインターネットにつないで使うための共通通信方式をつくると発表した。AIスピーカー分野を席巻するアマゾン、グーグル、スマートフォンで大きなシェアを占めるアップルというドミナントの動きは、スマートホーム市場の拡大を促すのか。先行する米国と日本の現状を比較する。
 

米ではセキュリティー業界とIT企業が牽引

 
 ホームセキュリティー産業から米国のスマートホーム市場は始まっている。

 米国では、広い家に多数あるドアや窓のロック、照明のオンオフを、有線で制御するホームセキュリティーサービスが以前からあった。それが無線になり、ブロードバンド化されることにより、データはクラウドに、操作はスマートフォンに、と変わっていった。

 一方で、グーグルやアマゾンも、AIスピーカーや空調制御などの自動化の観点からスマートホーム市場に参入した。

 契機として注目を浴びたのは2014年、グーグルがネストというサーモスタットの会社を買収した時だ。サーモスタットといえば空調などの制御装置だが、ネストのサーモスタットは、オンオフなどの人間の操作をAIが学習し、自動化していく。ネストに置き換えると年間300~400ドルの光熱費が節約できるのが売り物だった。

 同じ年、アマゾンがAIスピーカーの「エコー」を発表。AIスピーカーブームを起こしていく。開発キットを使えば、アマゾンエコーのAI「アレクサ」に連動する製品を開発できるため、多数の製品が供給された。その後、グーグルやアップルもAIスピーカーを投入。スマートホーム市場が活気づいた。

 米国ではDIY文化が根付いており、家のサーモスタットや鍵を自分で取り換える人も多い。大手量販店にはAIスピーカー対応の機器が並び、自ら買って構築していく。自分でできない人のためにIoT化を代行するサービスもあるという。
 

AIスピーカーに規格統一の動き

 
 しかし、各社のAIスピーカーそれぞれ規格が異なるため、便利な製品でもプラットフォームが異なると使えなくなってしまう。これを共通化し、スマートホーム市場を拡大しようという動きが、アマゾンなどが昨年末に発表したプロジェクト「コネクティッドホーム・オーバーIP」だ。

 プロジェクトには3社のほかジグビーアライアンスという、近距離無線通信規格の委員会も参加する。ジグビーは多数の機器を接続することができる通信方式で、IoT機器を結ぶのに適していると考えられるからであろう。スマートホーム実現に向けて、セキュリティーも互換性も高い通信規格を作ろうというのが狙いだ。
 

日本でも対応製品は増えてきたが・・・

 
 では、日本でのスマートホーム事業は、今、どのような動きをしているのだろうか。

 東急グループのCATV大手、イッツ・コミュニケーションズ(東京都世田谷区、嶋田創社長)は、15年2月から、家庭内のIoTサービス「インテリジェントホーム」を提供している。このプラットフォームを提供するコネクティッド・デザイン(東京都世田谷区、武田浩治社長兼CEO)では、各地のCATV会社などにプラットフォームを提供している。

 同社のシステムは米国最大のCATV会社コムキャストが提供するスマートホームのプラットフォームを日本型にしたもので、IoT仕様のスマートロック、IPカメラ、ドアセンサーだけでなく、エアコンや照明など、IoT仕様になっていないような家電も、家電コントローラーでつなぐことができる。スマートフォンやAIスピーカーから操作したり、さらに連動させたりすることも可能だ。=図

 最近では、東急グループ以外にもスマートホーム事業に乗り出す企業は増えている。17年に設立されたコネクティッドホームアライアンスには、電力会社も含め87社が参画している。また、Wi―Fi搭載や、AIスピーカーに対応する家電も増えてきた。しかし米国のような市場拡大は、日本ではまだ起きていないのが現状のようだ。

 コネクティッド・デザインの武田社長は「普及には、他社との連携が鍵になるのではないか」と話す。同社は民泊事業へのスマートロック支援サービスや、他社の床暖房・給湯システムとの連携など、取り組みを始めている。日本において、市場拡大のトリガーは何になるのだろうか。
 

スマートホームと調整力が結びつく日は来る?

 
 17年8月、米国で皆既日食が観測された。この時、グーグルはネストを使い太陽光発電量の激減に連動する電力使用量削減プロジェクトを展開した。スマートホームが再生可能エネルギー大量導入時代の調整力になる日が来るのかにも、注目したい。

電気新聞2020年4月13日