前回はACM(Atmospheric Corrosion Monitor)センサーにより、鉄塔の腐食をモニタリングする技術について紹介した。ACMセンサーを鉄塔約150基に約1年間設置、10分間隔で測定したモニタリングデータから、炭素鋼と亜鉛めっきの腐食速度を得た。腐食速度データは、鉄塔の亜鉛めっきが腐食により消失する直前に初回塗装する時期の決定や、鉄の腐食減肉により鉄塔が強度不足に至る前に部材交換や建て替えを行う時期の決定に役立った。第2回は、東京電力エリア内約4万4000基の鉄塔の腐食を一括管理し保全を高度化する技術を紹介する。


 当社は、1999年から蓄積してきた150点以上の腐食速度データを目的変数として、公開されている気象や地形など約100種類のデータを説明変数として重回帰分析を行った。

 腐食速度と相関性の高い説明変数を十数種類抽出し、変数増減法により説明変数を数種類に絞り込み、腐食速度推定式を作成した。日本全体を0.5キロメートル間隔で区切った格子点として座標群を構築し、気象官署のデータがない地点は、データがある地点間を直線で結び、その間で距離的な比率をかけて中間値を割り出す線形補間を利用して腐食速度推定式に当てはめ、全格子点の腐食速度を導出し、マップを描画した。

 その後、鉄塔の保全に利用するために、鉄塔位置の緯度経度を入力すると腐食速度が表示されるシステムを開発した。腐食速度マップが開発される前は碍子の塩害汚損区分を基に腐食速度を5段階に分類していたが、腐食速度を0.1マイクロメートル単位で約50段階分類した腐食速度マップが完成した。

 ◇ビッグデータ蓄積

 約30年前は腐食に関するデータが少なかったためにTBM(Time Based Maintenance)、BM(Breakdown Maintenance)、PM(Preventive Maintenance)による設備管理が行われていた。近年は、点検を繰り返し、腐食状態を把握し初回塗装時期や再塗装時期等を決定するCBM(Condition Based Maintenance)の考え方が採用されており、様々な環境で積極的に腐食調査をするようになった。

 現在は、腐食モニタリング技術の発展により、腐食速度データ、環境データといったビッグデータが蓄積されるようになった。さらに、リスクマップ化技術などの発展により、データサイエンスの手法を用いた腐食速度評価技術が普及し、RBM(Risk Based Maintenance)が主流となっている。

 ◇点検・修繕合理化

 鉄塔保全もこの流れを先取りし、06年には38地点の腐食速度データを基にした腐食速度マップを運用開始した。腐食速度推定値が現場技術者の知見と乖離している鉄塔での腐食速度測定を追加実施したものだ。測定地点を150地点以上に増やし、10年には推定精度を向上した腐食速度マップを運用開始。鉄塔1基ごとの亜鉛めっきと炭素鋼の腐食速度を一覧表にして設備管理マニュアルに記載した。

 これにより、全鉄塔の初回塗装時期を把握できた。その結果、導き出された推定時期の直前に一度だけ詳細点検し腐食状態を正確に把握し、設備保全計画を作成することで保全コストを削減した。

 また、ほかの金属の腐食速度や付着物濃度、ぬれ時間、紫外線強度等のリスクマップ開発や、鉄塔以外の様々な電力設備のメンテナンスの改革・カイゼンにもつながり、点検・修繕コストの削減やメンテナンス時期平準化など経年設備増加と保守人材減少の時代に向けて合理的な保全戦略を構築できるようになった。リスクマップ群は、設備不具合発生時に環境に応じた同型機器対策展開の対象数の絞り込みや優先順位決定だけでなく、環境に応じた設備仕様の適用範囲の決定、延命化にも役立っている。

 先般、この腐食速度マップの開発による長年の腐食管理技術向上と鉄塔保全高度化の活動が認められ、第9回インフラメンテナンス大賞の優秀賞(経済産業省)を受賞することができた。(この項おわり)

電気新聞2026年8月24日