近年、様々な産業分野で設備の高経年化に伴い腐食によるトラブルが増加、腐食をキーワードとするニュースも多い。設備を構成する様々な材料の損傷原因究明、対策立案、寿命評価の研究に従事することで、金属材料の腐食を原因とする設備損傷件数は、疲労、摩耗といった原因よりも多いことが分かった。つまり、腐食を適切に管理すれば設備保全コストを大幅に削減できる。そのため、材料と環境によって異なる腐食速度と寿命を予測することが重要となっている。前編では、送電鉄塔の腐食速度評価技術を紹介する。
溶融亜鉛めっき鋼製の送電鉄塔は大気環境で腐食するため、亜鉛が腐食で消失する前に腐食生成物や付着物を除去する下地処理を行ってから初回塗装する。その理由は、亜鉛が腐食により消失して炭素鋼=鉄の腐食が始まった部材に塗装すると、亜鉛に比べて腐食速度は数倍から環境によっては数十倍程度になる。このため、塗膜下の腐食生成物の体積膨張が顕著となり、早期に塗膜が破壊され再塗装周期が短くなるからだ。さらに鉄の腐食が進行すると、減肉による強度低下から部材取り替えや鉄塔建て替えが必要になる。
従来、点検を繰り返し腐食状態を把握した上で初回塗装や再塗装時期を決定するCBM(Condition Based Maintenance)の考え方が導入されていた。昇塔作業員の減少や保全コストダウンの必要性から、亜鉛めっきの腐食速度を精度よく知り、点検や塗装のタイミングを最適化したいという要望が増えた。また、鉄の腐食が始まった部材は、鉄の腐食速度から強度低下を考慮した部材取替え時期を知りたいという要望もあった。
◇3年以上が1年に
従来は、金属板を大気環境に暴露して腐食減肉量を調査していた。だが、腐食速度を精度よく知るためには、表面の腐食生成物による腐食速度の変化を考慮すると3~5年以上の暴露期間が必要だった。そこで、約1年間の測定で腐食速度を推定できるACM(Atomospheric Corrosion Monitor)センサーを活用した。ACMセンサーは故辻川茂男氏(東京大学名誉教授)らによって開発された。

鉄基板に絶縁塗料と銀含有塗料をパターン印刷機で塗装したACMセンサーの表面に大気浮遊物質が付着し、湿度が高くなり、ぬれ(水膜)を生じ電解質膜が形成されると、スリット部の炭素鋼露出部が腐食しながら上層の銀含有塗膜との間に腐食環境の厳しさに応じたガルバニック電流(出力電流)が発生する。このため、主にぬれと付着物で決まる大気腐食を定量化できる。開発者をはじめ多くの研究者がACMセンサーと鉄板を同じ環境に暴露して、センサー出力電流から腐食速度を推定する式を導出した。この推定式と亜鉛と鉄の腐食速度の換算式を活用して150基以上の鉄塔にACMセンサーと温湿度センサーを設置、10分間隔で測定したモニタリングデータから亜鉛めっきと鉄の腐食速度を得た。
ACMセンサーは鉄基板自体が腐食する自己消耗型センサーであり、2~3カ月に1回程度の交換が必要。交換し撤去したセンサーの表面の付着物の種類と濃度を分析、ACMセンサーと相対湿度のモニタリングデータ、付着物データから環境と腐食速度との関係を把握した。
その結果、腐食が厳しい海浜地域でも主風向によっては付着海塩が少なく腐食速度が小さくなる環境があること、腐食が穏やかな山間地域でも海塩粒子を核とした雪が多く飛来し冬季だけ腐食速度が大きくなる環境があること、酸性霧の発生する環境では腐食速度が大きくなる傾向があることが分かった。
◇塗装時期を正確に
ACMセンサーで測定した150基以上の鉄塔は点的に腐食管理が可能になった。次に約4万4000基の鉄塔を一括管理するため、150点以上の腐食速度データと公開されている膨大な気象や地形など環境データとの関係を重回帰分析により評価し腐食速度推定式を開発。腐食速度マップを作成した。鉄塔一基ごとの亜鉛めっきと鉄の腐食速度を一覧表にして設備管理マニュアルに記載した。これにより、全鉄塔の初回塗装時期を把握可能になりその推定時期の直前に腐食状況を正確に診断。設備保全計画を作成するRBM(Risk-Based Maintenance)で保全コストを削減できた。腐食速度マップによる保全効率化に関しては後編に掲載する。
電気新聞2026年8月17日






