まずわが国の制度の特徴を改めて整理する。次の3点である。
(1)単一の炭素価格でない
(2)炭素価格収入が総額20兆円のGX経済移行債の償還財源として期待されている
(3)電気事業側で、大手事業者の価格設定に規制が残っており、炭素価格の価格転嫁に制約がある
この3点を前提として、以下で課題を列挙していく。
第一に、GX経済移行債の償還負担の偏りである。
GX経済移行債の償還財源は、広く課金される化石燃料賦課金と発電事業のみが負担する特定事業者負担金からなる。これらの各年度の総額は、前者は石油石炭税収の22年度からの減少分、後者については再エネ賦課金収入の32年度からの減少分が上限とされる。
石油石炭税の22年度税収実績は6630億円、再エネ賦課金収入は24年度実績で2.7兆円であり、今後数年間は増加傾向と言われる。再エネ賦課金の方が資金規模がより大きいので、特定事業者負担金による償還がより大きくなると想定される。日本エネルギー経済研究所による試算を一例として紹介すると、50年度に石油石炭税の税収が90%減、すなわち化石燃料消費が90%減となると仮定し、化石燃料賦課金の総額を前出の上限一杯に設定すると、50年度までの化石燃料賦課金の累計収入は7.8兆円で、残る12.2兆円(約60%)の償還は特定事業者負担金に依存する。
化石燃料消費の減少率が90%まで達しなければ、化石燃料賦課金の収入は7.8兆円よりも小さくなり、特定事業者負担金への依存はさらに高まる。つまり、この7.8兆円は50年度までの化石燃料賦課金の累計収入の現実的な上限ととらえることが可能だろう。
他方、わが国の発電事業のCO2排出量は、23年度実績で国全体の37%であり、この事業が特定事業者負担金を通じて償還財源の60%以上を負担することになる。発電事業者に負担が偏っていると言える。
第二に、エネルギー間競争の歪みである。
ハイブリット型制度は、基本的に炭素価格が一律とならない。将来の化石燃料賦課と特定事業者負担金の水準は、日本エネルギー経済研究所、三菱総研などが試算を公表しており、いずれも特定事業者負担金の単価は化石燃料賦課金の数倍である。前提の置き方で試算結果は様々変わるが、そもそもわが国の制度はCO2排出量の比率が37%(23年度実績)の発電事業がGX経済移行債の償還財源の60%以上を負担する。特定事業者負担金が化石燃料賦課金に比べて相当に高くなると想定するのは妥当であろう。
これは、すなわち特定事業者負担金を負担する電気と、化石燃料賦課金を負担する石油・ガスなど他のエネルギー源では直面する炭素価格が全く異なることを示しており、エネルギー間の競争が電気に不利な方向に少なからず歪む。「需要の電化」と「電源の低炭素化」を並行して推進することは、CO2排出量の大幅削減を追求する有力な手段である。しかし、これに逆行する制度になってしまっている。
第三に、炭素価格によるインセンティブの歪みである。
政府は「成長志向型カーボンプライシング」を先行投資支援と排出削減インセンティブの二つの性格を持つ制度とし、これを美点と考えている節もある。しかし、二面性を持つゆえに、排出削減のインセンティブが歪む面もある。
一例を挙げると、化石燃料賦課金の単価は、「石油石炭税収の22年度からの減少分÷CO2排出量」が上限となる。すなわち化石燃料消費が減少せず、CO2排出量も石油石炭税収も減少しなければ、化石燃料賦課金の単価が安く抑えられる。つまり、CO2排出量を減少させないインセンティブを生じうる。
第四に、炭素価格の価格転嫁における制約である
電気事業では16年にいわゆる小売り全面自由化が実施されたが、大手電気事業者は価格設定が完全に自由になった訳ではなく、例えば次の規制が残っている。
(1)大手の発電事業に対し、余剰供給力全量を限界費用に基づく価格によりJEPXの前日スポット市場に投入することが求められている。
(2)大手の小売電気事業による低圧需要家向け供給について、法的独占が解除されたにもかかわらず供給義務と料金規制が残っている。
他方、排出量取引制度では、当年度に割り当てられた排出枠と実際の排出量の差分を、市場取引を通じて調整し、事業者の炭素価格の費用負担が確定するのは次年度以降である。この費用を確定後に価格転嫁しようとすると(いわゆる「期ずれ」)、次の2点が問題となる。
第一に、次年度以降に価格に反映されても、行動変容を促すシグナルになりづらい。
第二に、この電気の買い手から翌年度以降に炭素価格相当額を回収することは難しい。事業者に費用回収のリスクが生じる。
これらの期ずれの問題は、他の事業でも発生し得る。しかし、電気は生産即消費であり、価格規制が残っていることから、より問題は大きいであろう。価格を自由に決めてよいなら、政府は事業者に自己責任で想定した炭素価格を転嫁し、リスクをとることを求めることもできようが、規制を残している以上、電気事業は該当しない。
上記(1)および(2)の規制は、既に電気事業制度に様々な歪みをもたらしている。早々に廃止すべきと筆者は考えており、今回、排出量取引制度の適用が決まったことは、これらを廃止すべき理由がまた一つ増えたと言える。化石燃料賦課金の価格転嫁は、事前に料率が分かるので、はるかにシンプルだ。規制を残すならば、化石燃料賦課金を適用すればよいのである。しかし、政府に規制を廃止する動きはなく、にもかかわらず価格転嫁に課題がある排出量取引をあえて選択した訳だ。政府には、電気事業者が費用回収のリスクを一方的に負うことのない措置を手当する責任があると思料する。
電気新聞2026年1月19日





