政府がハイブリッド型制度の導入を決定したのは、22年11月の第4回GX実行会議であったが、遡る同年5月に経団連が提言書「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」を公表している。その中には、カーボンプライシングに関する見解も含まれており、炭素税(既存炭素税の増額)については、排出削減効果が限定的、国民生活への大幅な負担増、産業の国際競争力への悪影響などの懸念から反対とした上で、排出量取引制度は削減の確実性を担保しつつ、国際競争の状況や代替技術の進展なども踏まえ、産業競争力に配慮した柔軟な対応が可能として、有力な選択肢としている。この見解が、政府の決定に相応に影響したことは容易に想像されるが、ハイブリッド型制度には炭素価格が一律とならず、社会全体のCO2削減費用の最適化がなされない大きな課題がある。また、排出量取引制度は排出枠の設定・モニタリングの行政コストが嵩む。制度のカバー率を高めればそれに拍車をかける。加えて、排出枠の設定に政治が介入する余地が大きく、これも社会全体の最適化を妨げる。
炭素税については、諸外国との違いを認識する必要もある。わが国の既存の炭素税(地球温暖化対策税・石油石炭税)は特別会計(エネルギー対策特別会計)の財源であるのに対し、例えばEUの炭素税の多くは、一般会計の財源である。そのため、EUで炭素税の新規導入・増税がある場合は、他の税の減税と組み合わせて国民負担を調整する税収中立措置が普通に行われる。すなわち、経団連が懸念した国民負担の増加や産業の国際競争力低下は、税収中立措置による対処が可能である。これで不足であれば、対象業種を絞って政策補助をさらに講じることも可能であろう。
実は、税収中立措置を伴う炭素税がわが国でも提案されたことがある。16年に公表された環境省の気候変動長期戦略懇談会による提言は、「環境価値を顕在化させ炭素生産性の向上と経済全体の高付加価値化を誘発するカーボンプライシング」として、「法人税減税、社会保障改革と一体となった大型炭素税」を掲げていた。当時の論調としては、安倍元首相のブレーンであった経済学者の浜田宏一氏が、税収中立措置を伴う炭素税の有効性を説く論考を日本経済新聞の経済教室に掲載し、また政府の招きで来日したノーベル賞経済学者のスティグリッツ氏が、政策課題となっていた消費増税について、いま増税するなら炭素税だ、と提言したこともあった。しかし、当時の政府内の議論は、カーボンプライシングを導入するか否かの入り口論に終始しており、議論が深まることはなかった。
改めて考察するに、大型炭素税は次の点で、ハイブリッド型より優位と思われる。
・排出削減効果が期待できる税率を設定しつつ、税収中立措置を通じてマクロ経済への影響を緩和することが可能
・単一の炭素価格を設定するので、国民負担の公平性が担保可能
・少なくとも商業化されている技術は、単一の炭素価格の下でコストの安いものから導入されていく。社会全体で見て効率のよい排出削減が可能
筆者は、ハイブリッド型制度の導入を決めたGX実行会議の議論は拙速であったと思っている。本来は大型炭素税との比較考量があるべきであった。しかし、かかる議論は実現しなかった。
以下では、ハイブリッド型制度の導入が既定路線となっている現実を踏まえ、導入に伴って電気事業が直面すると想定される課題を数点考察してみる。





