海外エネルギーでは全てのコア業務にAI(人工知能)を活用する「AIファースト企業」への変革が進む。AI搭載ロボットによる太陽光パネル設置自動化、原子力発電所への生成AI本格導入、AIスタートアップに2.5億米ドル出資や買収、AIエンジニア6000人育成、AI研究所200人体制などが挙げられる。近著『エネルギー業界を変革するAX戦略』(電気書院)から、全6回で海外事例を紹介する。電力は(1)欧州前編(2)欧州後編(3)北米・中東・アジア編――の3回。次に(4)海外石油編、エネルギーAIスタートアップは(5)北米編(6)欧州編――。初回は欧州2社を取り上げる。
米CBINSIGHTS社が「ユーティリティAI準備指数2025」を発表した。これはAIの最新技術への挑戦力と実装力を評価したもの。ベストテンは、(1)伊エネル(2)米デュークエナジー(3)仏エンジー(4)ドバイ電力水道局(5)独エーオン(6)米サザンカンパニー(7)韓国電力(8)英ナショナルグリッド(9)西イペルドローラ(10)米ネクステラエナジー――だった。欧州勢が半分を占め、AI変革をリードする。北米3社、中東とアジア各1社と続く。

1位のエネルは15年、AWSと協業し社内システムのフルクラウド化を始め、19年に移行を完了した。これは伝統的電力大手で世界初。23年、クラウドAIとしてML(機械学習)基盤を構築した。各部門で多数のMLプロジェクトが始動し、250のAIアプリケーションを実装した。
送配電網にMLを導入し、異常検知・予知保全・資産管理最適化を達成した事例を紹介する。ヘリコプター、車両、IoTセンサーを使って年間4000万枚以上の高解像度画像や3D点群データを取得。MLにより画像から重要部位を検出し、状態判定や腐食・破損箇所を解析、インフラを保全する。これにより送配電網のトラブル発生件数を40%削減した。また、スタートアップを買収しデジタル変革を加速する。17年、米エナノックを買収し、デジタル子会社エネルエックスを設立した。その後も次々とスタートアップを買収し、デジタル・AIの内製開発と事業創出を強化した。
◇新興と実用化125件
さらに、AI最新技術への挑戦では、スタートアップと共創するプログラムを2つ持つ。16年、テルアビブに「イノベーションハブ」を開設し、スタートアップとの協業を開始した。現在、拠点は世界10カ国に拡大した。分野は、AIやデジタル技術、スマートグリッドなど。過去、1万4300社のスタートアップと接触し、585のプロジェクトを組成、125件を実用化した。例えば、AIによる発電設備の予知保全・効率化、スマートシティの需給最適化、設備検査の自動化を達成した。
18年には報酬付きコンテスト「オープンイノバビリティ」を開始した。イノバビリティとはイノベーションとサステナビリティをかけ合わせた造語だ。その仕組みは、専用サイトで課題・報酬・提案期間を告知し、世界から提案を受け、コンテスト優勝者に報酬を与えるもの。報酬には、賞金のほか、協業の提供なども含まれる。過去、200を超えるコンテストに、世界から1万5000件以上の応募があった。安全行動検知(作業者の行動から事故リスクをAIで予測)、再エネ設備ロボット(AI+ロボットで現場データ収集・点検・保守の自律化)、風力ブレードの発電量最大化、森林火災の早期発見などが挙げられる。
◇グループ大で集約
3位のエンジーは、14年にイノベーション部門「エンジーファブ」を立ち上げた後、16年に創設したデジタル組織「デジタルファクトリー」がデジタル変革の出発点となった。グループ横断でデータを集約・共有する分散型データレイクをAWS上に開発した。設備・気象・発電データなどを統合し、資産運用最適化をはじめ1000以上のMLモデルを開発した。18年、デジタルファクトリーはデジタル事業子会社「エンジーデジタル」となり、デジタル投資の収益化に軸足を移した。
エンジーは19年にはマイクロソフトと提携、AIによる再エネ資産管理基盤「ダーウィン」を開発し、プラントの稼働率や生産性を向上させた。さらに22年にはグーグルと提携。需要・気象予測に基づき風力発電の最適な販売時期をAIで予測し、収益を最大化した。
また、エンジーは14年から57社のスタートアップに出資し、最新技術の導入を図っている。主なAI出資先は、米AMS(蓄電池管理)、蘭Energyworx(エネルギー管理)、仏Samp.ai(デジタルツイン)など。
電気新聞2025年12月15日





