EV(電気自動車)は単なる電動化技術ではなく、エネルギー・資源・地域を統合する社会システムへと進化しつつある。第4回では、バッテリー診断と性能予測が中古EVの価値を引き上げ、残価改善と国内循環をもたらす「実効性ある武器」であることを示した。最終回となる本稿では、この循環型EVモデルを社会にどう実装するかを論じる。鍵は、地域の行政・企業・市民が供給者であると同時に需要家となり、自ら循環の輪に参加するという新しい産業構造である。
◇EVは社会システムである
EVは再エネや蓄電池と結びつき、負荷調整や非常時電源を担う「動く分散電源」として社会インフラに組み込まれていく。
自動運転やAI(人工知能)が普及すれば、EVはモビリティにとどまらず、瞬時の電力需要に応じて柔軟に機能するエネルギーリソースとしての役割を強める。こうした未来を前提にすると、車載、定置、リサイクルが一体となった循環構造こそがEVの本質的価値となり、産業の中心へと浮上していく。
◇資源の国内循環は国家戦略であり地政学的な必然
EV循環は資源安全保障、電力レジリエンス、地域経済に直結する国家戦略である。
日本は1次エネルギーも電池素材も輸入に依存し、原油やLNGはマラッカ海峡などチョークポイントを経由する。国際情勢の不安定化が続く中で、一度輸入した資源を長く使い回す循環構造は、供給途絶や価格変動の影響を和らげる資源安全保障の中核となる。また、災害の多い日本では、EVやリパーパス電池が地域の分散電源として機能し、インフラのレジリエンス向上に大きく寄与する。
資源、地理、災害のいずれの観点から見ても、地域単位で循環を閉じる構造は日本に最も適した戦略である。
◇愛媛モデルが示す地域循環
愛媛県ではすでに、自治体や企業が参画する「えひめEVサーキュラーエコノミー推進協議会」が立ち上がり、地域循環の実装が始まっている。
さらに、県内のデジタル実装を進める「トライアングルエヒメ2.0」が、中古EVのバッテリー性能を客観的に可視化し、その評価基準を地域社会に定着させるための仕組みづくりを後押ししている。この取り組みの核心は、行政、企業、市民が製品の需要家として関わる一方で、使い終えたEVやバッテリー(またはEV電池)の供給者としても循環を支えるという双方向性にある。
行政は中古EVを公用車として導入し、リパーパスバッテリー(または再利用電池)を非常時電源や街路灯に活用する。企業は業務EVやBCP電源として受け入れ、市民は安全性が証明された中古EVを再エネ設備と組み合わせて日常生活に取り入れる。
3者が供給と需要の両方を同時に生み出すことで、地域内の循環が持続可能な産業へと姿を変えていく。愛媛モデルは日本型EVサーキュラーの社会実装に向けたプロトタイプである。
◇需要創出が産業化の決め手になる
日本はこれまで、半導体、液晶、太陽光などで技術的には先行しながら、産業として主導権を失ってきた。その理由は需要が「なかった」からではない。自ら需要を喚起し、持続的に育てる仕組みを構築できなかったことにある。
EVサーキュラーで同じ過ちを繰り返さないためには、行政・企業・市民が公用・事業・生活の需要を積極的に生み出し、循環の各フェーズに安定した市場をつくる必要がある。
愛媛モデルは、この需要創出型EVサーキュラーの具体的構造を提示している。

◇循環は「巨大市場」であり、日本の未来産業
この循環市場(またはEVサーキュラーエコノミー市場)の潜在規模は小さくない。日本総研の試算では、中古EV、リユース電池(またはバッテリー)、リサイクルを含む国内におけるEVサーキュラーエコノミー全体の市場規模は、2025年から50年にかけて約10倍に拡大、50年には8兆円規模に達する見通しである。
EVの価値を車両性能だけでなく「使い切るまでの全ライフサイクル」で捉え、国内で循環させることで、自動車産業、バッテリー産業(または電池産業)、エネルギー産業を横断する新たな巨大市場が立ち上がる。バッテリー診断と性能予測は、この循環市場を確実に動かす触媒の役割を果たす。
行政、企業、市民が需要家として循環に参加し、地域で循環を閉じることができれば、EVはエネルギー、交通、防災、産業を横断する「循環インフラ」として社会に定着する。
日本は、EV資源循環という新しい産業構造の実装を通じて、技術を産業へと転換し、世界をリードするモデルを提示できる。循環は理念ではなく、挑戦する価値のある未来産業そのものである。(この項おわり)
電気新聞2025年12月8日





