企業成長や新規事業展開の手段としてM&A(企業の買収・合併)が拡大している。近年、デジタル化を加速させるため、IT企業の譲り受けを検討する異業種企業が増加している。エンジニア不足が懸念される中、M&Aを活用して人材を確保し、技術力や専門知識を迅速に獲得することを目的とするケースも多い。本稿では、建設業の上場企業が情報通信業の企業を譲り受けた事例を紹介。業務効率化やデジタル技術導入を目的とした異業種間マッチングがいかに両社にメリットをもたらし、持続的な発展につながったのか。その背景と成約のポイントを解説する。

譲受企業は、業界で確固たる地位を築き、売り上げ500億円を誇る建設業であった。しかし、建設業界全体に共通する課題として、IT化の遅れやデジタル技術の導入不足が顕在化していた。業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を加速させるためには、外部から専門的な知見と技術を取り込む必要があった。そこで、社内のIT基盤を強化し、将来的な競争力を高める戦略を描くべく、情報通信業を営む企業とのM&Aを検討し始めた。
一方、譲渡企業は情報通信業を営み、堅実な経営により売り上げ約5億円の事業規模を有していた。経営者は40代と比較的若く、事業承継を急ぐ状況ではなかった。しかし、市場環境の変化や労働人口の減少を背景に、利益確保が難しくなりつつあった。大きな経営危機を抱えていたわけではないが、今後の発展に向けて新たな経営資源を必要としていた。また、人材採用の強化や販路拡大に向けて、自社単独での成長には限界があることを認識していた。そこで、強固な経営基盤と広範な事業領域を持つ上場企業との提携によって、従業員にとっても将来性のある環境を整備できる可能性に魅力を感じ、M&Aを検討するに至った。
◇中長期での発展を
譲渡企業は「シナジーの明確さ」を重視した。単なる資本の受け渡しではなく、双方の強みを生かし合い、中長期的に発展していける相手先を条件としていた。結果として、建設業という異業種でありながら、デジタル技術の導入を強く求めていた譲受企業と提携することで、その条件が満たされることとなった。
両社のニーズは高いレベルで一致した。譲渡企業は大手上場企業の経営基盤を活用することで人材採用や販路拡大の機会を得られ、従業員にとっても安心できる環境を整えることができた。譲受企業は譲渡企業の持つデジタル技術や人材を取り込み、IT化・DX化を加速させることが可能となった。異業種間でありながら、互いの強みを補完し合う理想的なマッチングが実現し、成約へと至ったのである。
◇双方のニーズ合致
今回のM&Aにおいて特筆すべきは、譲渡企業・譲受企業の双方の目的が明確であった点である。譲渡企業は新たな成長のための経営資源の獲得を、譲受企業は自社業務のIT化とDX推進を強く求めていた。両者のニーズが高い水準で合致していたことが、成約の大きな要因となった。
建設業と情報通信業という異業種間のM&Aであったため、相互理解の構築には丁寧なプロセスが不可欠であった。そのため、事業の将来像やシナジー効果を具体的に議論する場として、両社トップ同士の面談を数多く設定した。異なる業界文化や規模感を背景にした認識のギャップを解消し、双方が納得する共通のビジョンを描くことに注力した。
その過程で、譲受企業は譲渡企業が持つデジタル技術や人材力を自社の業務効率化に活用できると確信し、譲渡企業もまた大手上場企業の経営基盤を背景に、自社従業員が安心して働ける環境を整えられると判断した。結果として、IT化・DX化を推進するための実効性ある提携関係が構築され、成約に至った。
今回の事例は、M&Aが単なる規模拡大や事業承継の手段にとどまらず、異業種間での相互補完を通じて新たな成長を実現する有効な方法であることを示している。特に、DXが不可欠となる現代においては、譲受企業にとってM&Aは即効性のあるデジタル化の手段となり得ることを示している。双方にとって明確なメリットを実現できた点において、M&Aの持つ可能性を象徴するケースであるといえる。(この項おわり)
電気新聞2025年10月20日





