あらゆる業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の波が広がるなか、M&A(企業の合併・買収)を活用しDX推進を図る事例が増加しており、教育分野においてもデジタル技術を取り入れた新たな成長戦略が求められている。本稿では、譲渡企業のマーケティングDXにM&Aを活用した事例を紹介する。四国地方で英会話スクールの運営や法人研修を手掛ける譲渡企業と、同じく四国地方でSNSを活用したデジタルコンテンツ販売を強みとする譲受企業のM&A事例である。



 譲渡企業は創業以来、英語教育の質にこだわり、英会話スクールの運営や法人研修、翻訳サービスなどを展開し、着実に地域での信頼を築いてきた。当初、親族内承継を想定していたが、後継者が海外で起業したことにより実現が困難となり、事業の持続性を確保するために第三者承継の検討を余儀なくされた。

 検討を進めるなかで、譲渡企業が強く意識していたのは「マーケティングのDX化」である。教育の質には自信があったが、長年にわたりSNSを活用した集客や情報発信には十分に取り組めていないという経営課題を抱えていた。競合が次々とDX化に取り組むなか、自社内にはDX推進ができる人材もおらず、このままでは成長機会を逃すのではないかという危機感もあった。そこでM&Aを実施するにあたっては、単なる後継者探しではなく、事業の新たな成長を可能にするパートナーとなり得る企業であることを条件とした。

 ◇譲受側も相乗効果

 一方の譲受企業は、デジタルコンテンツ販売を展開する企業であり、ウェブプラットフォームやSNSマーケティングを駆使した販売力を強みとしていた。譲受企業は、事業領域を拡大し、売上成長を加速させるため、教育業界とのシナジーを求めており、英語教育のノウハウを有する譲渡企業に魅力を感じた。

 このように、譲渡企業が抱える「後継者不在」と「マーケティングDXの必要性」、譲受企業が抱える「事業拡大と教育分野への参入意欲」という双方の課題と目的が合致したことが、今回のM&A成立の決め手だったといえる。

 譲渡企業が譲受企業に求めた条件は三つあった。第一に「SNSを活用した集客力を持つ企業であること」、第二に「M&A後もこれまで同様の働き方やライフスタイルを継続できること」、第三に「信頼できる人柄を有する経営者であること」である。これらの条件をすべて満たした相手が、デジタルコンテンツ販売を手掛ける譲受企業だった。

 譲受企業はウェブプラットフォームを活用した販売やSNSマーケティングに強みを持ち、インフルエンサーマーケティングも積極的に展開している。教育分野に事業領域を広げたいという成長戦略とも合致し、両社の強みを融合させることで相乗効果が見込まれた。

 ◇アプローチ広げる

 M&A成立後、譲渡企業はSNSを活用した新たな集客手法に取り組み始めている。社長自身もYouTubeチャンネルの立ち上げを準備するなど、英語教育とデジタル発信を組み合わせた活動に意欲を示している。教育サービスに譲受企業のデジタルマーケティングが加わることで、従来は届かなかった層へのアプローチが可能になり、成長の幅が広がることが期待される。

 今回の事例は、単なる後継者不在の解決にとどまらず、譲渡企業が抱える経営課題の解決と譲受企業の成長戦略が合致したことで実現した成功事例である。譲渡企業が求める条件を明確にし、自社の課題を解決できる最適なパートナーを戦略的に探したことが、事業の未来を切り開く鍵となった。このように、M&Aは事業承継だけでなく、企業の新たな成長戦略としても有効な選択肢であることを示唆している。

電気新聞2025年10月6日