最近SDVという言葉をよく聞く。Software Defined Vehicleの略だという。新聞・雑誌などで「購入後もソフトウエアにより、常に最新の状態にアップデートされるクルマ」などと表現されるが、ソフトウエアで電気自動車(EV)のモーター出力が変わるわけでもなく、今一つそのイメージが湧かない。どんな世界が論じられているのだろうか。

 二度目の連載時に、「自動運転と電動化は別物だが、自動運転は魅力に乏しいEVの立場を一変させる鍵となるかもしれない」と書いた。テスラ社は、自動運転機能をサブスクとして提供しており、筆者はこれをSDVの最も分かり易い例として理解している。

 しかしながら、雑誌などで紹介されるSDVは少し様子が異なり、次の二種類が紹介されることが多いようだ。一つは、自動車の基本機能関係についてである。例を挙げれば、回生ブレーキの効き具合、パワートレインの動作特性などをソフトウエアによって向上させるというようなものである。二つ目は、アメニティー的な機能である。ドライバーが今聴きたいと思っている音楽を自動的に流す、などの機能がAI(人工知能)と相まって進化するなどである。究極は自動運転とSDVが密接に関係すると期待しているが、現在はそのような情報にはなかなか出会わない。

 この二つの流れのどちらがSDVの本流となるのか現在のところだれにも分からないらしい。二度目の連載では、「クルマがスマホ化する」という表現を用いた。ガラケーと呼ばれた携帯電話に、ユーザーがお好みのアプリを追加して、ケータイをSNS用の端末などに変身させるなど考えられなかったとはよく言われる。クルマにもそのような変化を期待するのもとても自然だ。

 ◇商流の作りやすさ

 一方、「スマートハウス」はどうだろう。朝7時に自動的にカーテンが開くとか、冷蔵庫のナカミをチェックして献立を考えてくれる、などがよく例示される。これは家にアプリを搭載する「家がスマホ化」の構想とも言えよう。私も期待する者の一人だが、残念ながらスマートハウスは未だ普及していないと言ってもよいだろう。スマホとスマートハウス、この違いはどこから出てきたのであろうか。

 一つは、商流の作りやすさという点がある。特に利用料金支払いの流れを作れるかは大きい。スマホは加入して月額利用料を支払うサブスクモデルが基本であるため、原理的に利用料金回収の基礎があるし、一種のPCでもあるので音楽配信のようなECとも親和性がよい。そのためマーケットプレイスなどと呼ばれる新たな商流システムや、アプリ内課金などの新しいビジネスモデルの創出に成功している。

 一方、住宅、特に戸建てでは、月額利用料金を支払うという文化がない。もちろん、電気・ガス・電話という一種のサブスクは大昔から存在しているが、それにアプリ利用料金を載せて回収するなどのビジネスの発生には至っていない。

 クルマのスマホ化の将来を左右するファクターとしては、ビジネスの世界でよく言う「手離れ」という概念も重要だろう。ある製品を売って、その後、故障もなく、従業員が積極的に介入しなくてもよいような状況を手離れがいい、という。その逆に、何遍もユーザーとのやり取りが発生するような状況を手離れが悪いという。

 ◇あえて手離れ悪く

 世の中面白いもので、手離れが悪いということは、当該の企業とエンドユーザーの間に、なんらかの関係が続くということであり、サブスクビジネスなどは逆にこの手離れの悪さをあえて作り出しているとも言える。逆に言えば、手離れが悪いビジネスほどサブスクに向くとも言えよう。

 ハウスメーカーなどは物件販売後の改築需要をどうつかむかに苦心するようだが、これは手離れの良さを物語っているようにも思える。ケータイは月額利用料に代表されるように、手離れの悪さが身上のサービスである。先に述べたサブスクモデル成功の素地は充分あったに違いない。

 さて、クルマはどうだろう。車検などはあるが、販売店との付き合いが日常的に発生するものでもない。車検や故障修理のサードパーティーも沢山ある。どちらかと言うと手離れは良いのかもしれない。もちろんSDVは、必ずしもサブスクモデルを採用するとは限らず、最初の車両価格にアップデート代を含める手法もある。しかし、現在のスマホのように土台となっている機器がソフトウエアで次々に進化するには、サブスク文化との親和性は重要なように思う。100年に一回といわれるクルマの変革はどうなるのだろうか。楽しみである。

◆用語解説

 ◆パワートレイン Powertrain。車両の動力を生み出し、駆動力を車輪に伝える一連の機構を言う。

 ◆アメニティー 快適さや利便性を高めるためのサービスなどを言う。

 ◆サブスクモデル サブスクリプション(subscription)モデルの略。サービス料金などを利用1回ごとに支払うのではなく、月極のように加入することにより一定期間サービス等を利用できるビジネスモデルのこと。使い放題のイメージで使用されることも多い。