◇スマホ、家電…既存の機器活用/被害状況、より迅速に把握

 災害はいつ、どこで発生したのかを迅速に把握することはとても困難である。また、発生した災害による停電や断水などの被害も同様だ。そこで防災科学技術研究所では、家庭内、街中、オフィス内など様々なところで利用されているIoTデバイスから得られるビッグデータを活用することで、災害と災害による影響を迅速に検出するといった従来にはない防災ソリューションの構築を目指している。

 河川の水位を計測する水位計は全ての河川に設置されている訳ではないし、内水氾濫を検出するためのセンサーはほとんど設置されていない。これらのセンサーをより多く設置することにより検出は容易になるが、機器コストなどの初期費用、通信費用、電気代などのランニングコストが発生することから、あらゆる災害に備えるための万全のセンサー網を日本全国、津々浦々に配備することは現実的とはいえない。

 スマートフォンを多くの人が所有し、スマートフォンからの位置情報が得られるようになったことで、地図上に渋滞などの道路情報が表示されるようになった。当初、スマートフォンを販売する企業は道路情報が提供できるようになるなど想定していなかったのではないかと思われるが、このようにIoTデバイスから得られるビッグデータを解析することで、従来、難しかった様々なことが可能になってきた。

 ◇インフラ異常検知

 私たちの生活の中には、スマートフォンだけでなく、カーナビ、テレビ、エアコン、空気清浄機、給湯器など多くのIoTデバイスが入り始めている。新たに防災用のセンサーを増やすのではなく、既存のIoTデバイスを防災用に活用することで、災害による影響をこれまで以上に迅速に捉える仕組みの構築を図っている。

 家庭にあるテレビ、空気清浄機、エアコン、冷蔵庫などがIoT化されていると、常時サーバーと通信をしている状態が生じる。停電もしくは通信障害が発生すると、通信が途絶えデバイスが接続されなくなる。地域内で接続が切れたデバイスが多いときは、何かしらの異常が地域で発生していることが分かる。給湯器であれば、水道とガスもつながっていることから、断水やガスの停止などの状態も捉えることが可能になる。このようにして家庭にあるIoTデバイスからインフラの異常を検知することができる。

 屋外では、スマートフォンから得られる人流で、普段少ないところに多くの人が集まっている様子や、急に高度が高くなり垂直に避難した様子などが検出可能となる。自動車も同様で、日頃は通行量が多い道路で、通行量が激減した状態も見て取れる。このように常時サーバーに接続されているIoTセンサーから得られるデータの変化を見ることで、その地域になんらかの異常が発生したことが分かるようになる。この異常が発生した原因が災害によるものではないかと推定し、災害発生の検知としても活用することができる。

 ◇救命率向上に貢献

 また、冷蔵庫の開閉、テレビのチャンネルを変えるといった人間による操作、エアコンの人感センサーのデータもサーバーに通信されている。ここから得られるデータからも、災害発生の直前にその家に人がいたかどうかの確認に使うことができ、災害時に在・不在情報を災害対応機関に伝達することで救命・救助率の向上も期待できる。

 さらに家庭内にあるIoTデバイスに対して防災情報を発信し、例えば寝室にあるエアコンから避難情報などを伝えることなどもできるほか、機器単位、地域単位などに対して情報を伝達することも可能となる。

 様々なIoTデバイスから得られるビッグデータの活用を通じて、日本の防災力の向上を目指していく。

◆用語解説

◆IoT インターネット・オブ・シングス。インターネットに接続されているデバイス。

◆内水氾濫 大雨が原因で排水機能が追いつかず、雨水が土地や建物に浸水する現象。

電気新聞2024年9月9日