◇激甚化、人材不足…困難な局面/産官学共創、最大の効果を

 伊勢湾台風、阪神・淡路大震災、東日本大震災など、数々の災害を経験し、その教訓を防災に活かしてきた日本。近年の災害の強大化と社会の脆弱化により、さらなる対策が求められている。期待がかかるのがデジタル技術による変革、デジタルトランスフォーメーション(DX)だ。IoT、クラウド、SNS、AI(人工知能)など、急速に進展するデジタル技術を防災にいかに活かすか、産官学共創の新たな挑戦が始まっている。

 DXは今や我が国の政策の大きな柱である。デジタル庁の創設はもちろん、デジタル田園都市国家構想、デジタル社会の実現に向けた重点計画、デジタル行財政改革会議など、デジタルの名の付く政策が多数打ち出されている。国土強靭化基本計画でも、2023年の改定により「デジタル等新技術の活用」が5本柱の1つとして位置付けられた。

 防災はこれら全てに明記されており、その重要性がうかがえる。21年内閣府「防災・減災、国土強靱化新時代の実現のための提言」では、防災を1本の木になぞらえ、これまでバラバラで行われてきた対応を、情報の流通で結び付けることが重要であると示している=

 ◇各所の情報つなぐ

 その根幹となる防災デジタルプラットフォームの1つとして、内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)で研究開発されたSIP4Dは、16年熊本地震を皮切りに数々の災害対応で活用され、ISUTという現場で活動するチームを生み出すとともに、内閣府の新総合防災情報システムの機能として採用され、今年4月から実運用開始となっている。

能登半島地震で被災した石川県では交通系ICカードを活用して被災者情報の把握に努めた

 さらに、デジタル庁からは、様々なシステム・サービスをつなぎ合わせ、デジタル手続法の基本原則の一つである「ワンスオンリー=一度提出した情報は、二度提出することを不要とする」を実現するための「データ連携基盤」の構想が打ち出されている。

 そこには地方公共団体や民間企業の主体的な関わりが必要であり、22年、防災DX官民共創協議会が設立された。今年元日に発生した能登半島地震では、ICカード「Suica」を活用した被災者動向把握や、分散した被災者情報を統合利用可能な被災者データベースの構築など、「個人」を対象とした従来にない取り組みが、県と同協議会の共創で実施されている。

 ◇災害備え知を結集

 なぜ今、防災DXか。デジタル技術の成熟がその要因の1つではあるが、なにより、地球温暖化の影響も含めて災害が強大化していること、コロナ禍を経て社会が複雑化していること、少子高齢化により災害対応人材が少なくなっていることから、最大限効率的・効果的に対応を行わなければならないという、極めて厳しい時代に突入していることが挙げられる。

 もはや官だ、民だとそれぞれ個別に検討・対応しているのでは、来るべき大災害に対応できない。ここに学も加えた産官学による知の結集と共創による防災DXの実行が喫緊の課題となっている。

◆用語解説

 ◆SIP4D エス・アイ・ピー・フォー・ディー。和名は基盤的防災情報流通ネットワーク。情報の自動変換と論理統合の技術により、異なる組織・システム間での情報共有を支援する仕組み。2014年より研究開発開始。

 ◆ISUT アイサット。和名は災害時情報集約支援チーム。大規模災害の際、政府や自治体の現地災害対策本部で活動する様々な災害対応機関に対し、各種地図情報を作成・提供。18年より試行、19年より防災基本計画に記載、本格運用。

電気新聞2024年8月19日