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 次に、脱炭素供給力確保の観点からは、長期脱炭素電源オークション(以下、長期オークション)が挙げられる。現在は、一定の考え方を前提としつつ、最後は一定の割り切りで決められている募集量についても、近い将来、電源版マスタープランを前提として、必要となる供給力等の募集量を決定することが期待される。また長期オークションについては、事業報酬率や他市場収益の原則9割還付の問題など、発電事業者の応札インセンティブが低いことが指摘されることがあるが、これに対しては、長期オークションのバリエーションを増やしていくことが考えられる。現在、長期オークションでは落札すれば、基本的に固定費の全額がカバーできる仕組みとなっているが、固定費回収について一定のリスクを内在させることで、ミドルリスク・ミドルリターンの枠組みを設けることも検討に値するように思われる。

 また、わが国は燃料調達をLNG船による海外からの輸入に依存しているが、欧州と比較して、ロシアのウクライナ侵攻後も電気料金の上昇幅が抑えられたのは、燃料の長期契約を確保していたことが大きい。2050年カーボンニュートラルに向けて、中長期的なLNG消費量の不確実性が増加している中でも、引き続き中長期契約を一定程度確保していくことが、エネルギーセキュリティーの観点は当然のこと、安定供給や競争上の基盤を確保する観点からも重要となる。

 現在、戦略的余剰LNG(SBL=Strategic Buffer LNG)の枠組みが整備されているが、将来的には、長期契約に基づき最低1カーゴ/月程度を目指すこととされている。

 しかし、SBLは、経済安全保障法に基づくものであり、平時における燃料の長期契約確保のためには、別途の施策が必要となる。ひとつの施策としては、小売電気事業者に対し一定割合の長期の電力卸供給契約の締結を義務付けることで、それを踏まえて発電事業者に燃料の長期契約を締結することを促す方策も考えられるが、どのような根拠に基づき長期契約の締結を義務付けるのかが難しい。

 そのため、将来的なLNG電源の想定稼働量を踏まえ、国として必要となるLNG長期契約の量を示した上で、確保可能な事業者を入札などにより決定、落札した事業者は一定のリクワイアメントの下で損失が生じた場合などの補填を受け、その原資は容量拠出金と同様の枠組みで小売電気事業者などに費用負担を求める、といった対応も検討に値するように思われる。

 従来は、供給力(kW)確保の文脈でCompetition for the marketの枠組みが議論されてきた印象が強いが、燃料が確保されなければ電源を稼働できないことからすれば、燃料(kWh)確保の文脈においても、Competition for the marketの枠組みの適用を検討すべきではないだろうか。