長崎県西海市江島沖における洋上風力発電事業の運転開始に向けた動きが、本格化する。住友商事、東京電力リニューアブルパワー(RP)が手掛ける事業で、2025年1月の着工に向けて海況、風況など各種調査は最盛期にある。29日には西海市の事業所が始動し、発電所の詳細設計に向けた準備も整いつつある。多くの関係者によると、工事は他の国内洋上風力案件と比較して「海底地盤の固さが課題」としているが、独自のノウハウや海洋建設物に強みを持つ五洋建設との協力で29年8月の運転開始にこぎ着ける考えだ。
西海市江島沖の洋上風力発電事業は住友商事、東電RPが出資する事業会社「みらいえのしま合同会社」(西海市、島田茂東社長)が進める。出力は42万キロワットで単機出力1万5千キロワットのベスタス製風車を28基建設する。
この事業は国の洋上風力案件の一つで「第2ラウンド」で公募され、住友商事などの陣営が落札した。公表されているスケジュールによると、陸上送変電設備工事が25年1月に始まり、海底ケーブル敷設が28年1月から、風車基礎据え付けは29年1月を想定する。
29日の事業所開所式で島田社長は、「次世代のためにも、このプロジェクトは必ず成功させなければならない」と意気込んだ。ただ目下の課題として浮上しているのが海底地盤だ。国が公募する他の洋上風力地点よりも固く、多くの地盤で用いられる「風車基礎を海底に埋め込んでいく方式では難しい場合がある」(関係者)という。
その解決策として思い描くのが、住友商事がフランスで参画する洋上風力案件の事例だ。フランス西部で進むノアール・ムーティエ洋上風力事業も地盤が固いが、「海底地盤から下向きにトンネルを掘るイメージの技術」(島田社長)で、穴を掘り基礎を建てるという。ノアール・ムーティエ洋上風力事業の工事が現在進行中で、知見を反映しやすい。積極的に情報を取り入れ、課題を乗り越える考えだ。
洋上風力事業は資機材の高騰も懸念されている。島田社長は、「為替の変動で輸入資材が高くなるケースもある。そこは国内産業の育成が大事」と指摘。国内サプライチェーンの活性化を意識するほか、実際に現場で働く人材の確保、育成にも力を入れる考えを示す。
世界の洋上風力事業は資材費、人件費の高騰で、中止や稼働時期の延期に追い込まれた案件もある。国の公募案件は、西海市江島沖の案件も含めて、それぞれ課題をどう乗り越えていくのか。国内外の関係者が注目している。
電気新聞2024年7月31日
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