◇係留索 数・長さ抑え安価に/標準化、コスト減へ工夫様々
最初に海上に巨大な構造物を係留したのは石油・ガス産業である。1960年代から、メキシコ湾岸、北海、黒海、他の海上で油田やガス田を大規模開発するために技術開発を行ってきた。その経験が浮体式洋上風力開発でも生かされている。ただし、石油リグは「毎回仕様の異なる一点物」なので建造コストが高い。浮体式の風車と浮体は薄利多売の量産品なので、標準化とコスト低減の工夫が求められる。また、浮体式洋上風力開発では係留方法も重要であり、色々なコストの削減方法が試されている。
米国再生エネルギー研究所NRELの2024年の試算では、1万5千キロワット風車×6基のセミサブ型のパイロットプロジェクトの初期建設コストのキロワット単価は98万円と見積もっている=表1。これを100万キロワット級に拡大すると、スケールメリットで工事費とプロジェクト費用が大きく減って63万円(35%減)までコストが下がると予測している。設備利用率(定格出力に対する実際の平均出力)を40%、売電価格を15円/キロワット時と仮定すると、年間売電収入は5256円となるので、それぞれ19年と12年で初期建設コストが回収できることになる(なお洋上風力の運転期間は約25年間)。英国スコットランドやノルウェー沖のように平均風速が毎秒10メートルを超える好風況の海域では、約60%を超えるより高い設備利用率が得られるので、低売電価格でも採算が取れる。
浮体式洋上風車は、勝手に流れていかないように、しっかり碇(いかり)で所定の位置に係留しないといけない。係留方法は、設置地域の水深、海底の地質(砂か岩か)、浮体の大きさ、潮流の強さ、等を考慮して選定する=図1。係留方法に応じて、使用する碇の形式も変わってくる=図2。1万キロワット級の数千トンの浮体を係留するには、直径10センチメートルを越える太い鋼鉄製の棒を曲げて作ったチェーンで3~9本分が必要である。係留索全体の重量と費用は1万キロワットの浮体1基当たりで数百トン・数億円に上る。
経済産業省の福島県楢葉沖と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の北九州市響灘沖の国家プロジェクトでは、確実性と信頼性を重視してカテナリー係留(碇はドラッグアンカー)を採用し、1浮体に6~9本を装備した。実機把注力試験も1本ずつ全数で検査した。カテナリー係留は、係留索の重量で浮体をつなぎとめるため、浅い海でも長さを短くできず(短いと軽いので固定力が不足する)、高価な大型鋼製チェーンを大量に使うので、経済的とは言えなかった。商用化時に年間数百基を係留するには、世界の大型鋼製チェーンの生産能力が不足する問題も指摘された。
ノルウェーのエクイノール社は豊富な北海海上油田の開発事業の経験を持つので、色々な技を駆使してスパー型浮体の係留コストを削減している。まず、係留索の本数は位置保持に最低限必要な3本/1浮体とした。次にサクションアンカーによるトート係留を採用して、係留索の全長も短く抑えた。第3に係留索の中間部分に鋼製チェーンより安い合成繊維ロープを採用した。ただし、樹脂は摩耗に弱いので、係留索両端の浮体と碇の接続部には鋼製チェーンを採用している。
最後は複数(2~3本)の係留索を同じ碇につなぐシェアードアンカーの実施である。これによりHywindTampen(8600キロワット×11基)では、11基の浮体を19個のサクションアンカーで係留している。日本の北九州の3千キロワット浮体が9本の係留索を9個のドラッグアンカーで固定しているのに比べると、非常に攻めた新技術を採用して、経済性向上を図っている。日本は海洋石油・ガス開発の経験が少ないため、係留関連の技術と量産サプライチェーンがまだ整っていない。技術提携や関連企業買収による強化が望まれる。
電気新聞2024年7月1日