では需要側エネルギー資源を十分ディスパッチャブルにし、有効な資産として電気事業の安定に貢献させるための条件とは何だろうか。ユーザーが持つこれらの資源は大きなものなら製造業における工場のDR(電気使用削減)や上げDR(再エネ余剰時の電気使用拡大)、小さなものでは家庭用の蓄電池やエコキュート、EVまでいずれももともと系統運用者の指令下にはない。また蓄電池を除けばこれらは本来製造工程や給湯、走行するクルマというエネルギー資源ではない本来の役割をユーザーに対して負っており、当然その応答性は発電機のような自由自在なものではない。
これを電気事業の安定に貢献させるには、契約によって系統指令に応答する仕組み、または価格提示によるユーザー利益によって実質的なディスパッチャビリティーを発生させる仕組みのどちらかが必要になり、さらにその際には需要側独特のディスパッチャビリティーの不完全さを前提としたものでなければならない。そのためには制度や市場の整備が急がれる。「次世代の分散型電力システムに関する検討会」(資源エネルギー庁)で進められている低圧リソースの需給調整市場への入札検討は前者、経産省EVグリッドワーキングで議論されていたEVのスマートチャージングは後者にあたる。
【図3】は、これら需要側資源の有効化に向けた全体像を示したものである。需要側資源の活用のためにはそれらの能力を需給運用、さらには配電系統最適化のために調達する仕組みが重要であるとともに、最も数の多い低圧リソースは家庭にあるため、小売料金メニューの改革も重要であり、さらにその改革をブロックしている小売経過措置の解除も必須条件になる。
また再エネ由来の電気を吸収する際にも課金されている託送料金は欧州の一部では大胆な引き下げも行われており、今後の日本での適用も期待される。また、今後さらに卸電力市場価格が下落する昼間の太陽光の活用を定着させるには、顧客コミュニケーションも含めた小売電気事業者やアグリゲーターの活躍も欠かせない。特に需要側活用拡大は大都市圏を含む再エネ出力抑制の増加を軽減できる唯一の手段なので、ここに手をつけない限り風力などの再エネ新規投資も採算悪化から停滞してしまい、日本の脱炭素化へのボトルネックとなりかねない。
日本を含め、自由化して脱炭素を目指す電気事業はもはや「理想郷」には戻れない。見えざる電気事業資産である需要側の活用を加えた新しい姿で、脱炭素・優れたコスト・安定性を実現する「新しい理想郷」を目指してチャレンジするのが正しい道ではないか。






