中国で試運転を開始した重力蓄電システム

◆再エネ出力変動に対応

 スイスのエナジーボールトは、世界初の商用重力エネルギー貯蔵システムの試運転を中国で開始した。同社は系統電力の需給緩和時に余剰電力を入力して重量物を高所に上げ、需給逼迫時にその重量物の降下エネルギーで発電機を回して電力を取り出す「重力蓄電」を手掛けるスタートアップ。今回使用するシステムは出力2万5千キロワット、容量10万キロワット時。再生可能エネルギーによる出力変動制御を目的として、現地企業などが出資して構築を進めている。同社は試運転を通じて他の蓄電方式と比較した場合の優位性を示し、重力蓄電の普及につなげたい考えだ。

 重力蓄電は、水の位置エネルギーを用いて電気エネを貯蔵する揚水発電にヒントを得て開発した。揚水は発電所を挟んで上下に水をたくわえる調整池を設置する。需給緩和時に下部調整池から上部調整池に水をくみ上げておき、必要に応じて下部に流すことで発電する。

 重力蓄電も電気を取り出す基本原理は似ているが、揚水と異なり建設環境を選ばないことや、蓄電池より化学的に安定しており劣化による出力・容量低下がないこと、環境負荷の小ささなどを強みとしている。

 試運転開始はスイス時間1日に発表した。同システムはエナジーボールトと現地エネ・廃棄物処理企業の中国天楹(CNTY)、米アトラス・リニューアブルが出資。上海近郊の江蘇省如東県で、近隣の風力発電所、中国国家電網の送電線と接続する形で構築する。

 スイスでは5千キロワット規模の設備を系統連系し、充放電の往復効率75%以上を確保していた。今回のシステムはこうした経験を基に構築しており、往復効率80%以上を見込む。6月に試運転を開始しており、第4四半期に本格的な連系を開始するとしている。これにより同蓄電所は、世界初の非揚水方式の大型蓄電システムになるとしている。

 中国は再エネ導入拡大政策の一環で様々な方式の蓄電システム導入を支援しており、中国天楹グループは新たに10万キロワットの重力蓄電システムを建設する方針を7月に発表している。

 エナジーボールトは2018年設立。社名は英語で「エネルギー保管庫」の意。ニューヨーク証券取引所に上場しており、サウジアラムコやソフトバンク系のファンドも出資している。

◆メモ

 ◆重力蓄電 コンクリートブロックなどの重量物を上げ下げすることで、電気エネルギーを位置エネルギーに変換する蓄電技術を指す。概念自体は古くから存在しているが、再エネの調整用途としてあらためて注目を集めている。コストや運用の安定性、騒音対策などが課題とされる。エナジーボールトのほか、英国新興のグラヴィトリシティーなどが本格導入に向けた取り組みを進めている。

電気新聞2023年8月8日