太陽光発電の余剰電力を活用したP2P(ピア・ツー・ピア)取引。FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)の買い取り期間終了を見据え、日本の電力会社が注目し始めた最先端の事業モデルのことだ。日本はもとより欧米でも普及するかは未知数だが、このモデルを実際に取り入れた国がある。バングラデシュだ。

 仕掛けたのは32歳のドイツ人起業家のセバスチャン・グロー氏。ドイツの再生可能エネ・コンサル会社が出資し、バングラデシュの首都ダッカに拠点を置くスタートアップ企業「ME SOLshare(ソルシェア)」の創業者として知られる。
 
 ◇多くが無駄に
 
 バングラデシュの無電化地域では、小型の太陽光パネルと蓄電池を組み合わせた自律分散型の供給システムが400万世帯以上に普及する。同社は国際機関などから支援を受け、太陽光を活用したP2P電力取引の機器とプラットフォームを提供している。

 「初めて現地を訪れた2014年、わずか1カ月で8万5千件もの太陽光パネルが導入されていると知り、衝撃を受けた」(グロー氏)。にもかかわらず、蓄電池の容量不足から多くの電気が無駄になる現実を目の当たりにしたことが、起業の原点になった。

 技術の鍵は「SOLbox」と呼ばれる太陽光向け直流電力計だ。太陽光が発電した電気や消費電力量をリアルタイムで計測し、クラウド上の情報処理システムに送る。

 自家消費や蓄電池への充電で使い切れなかった余剰電力は、自営線でつないだ太陽光を持たない世帯や電池切れの世帯に流れ、自動的に売り買いされる。

小型太陽光が急速に普及したバングラデシュ。時代を飛び越えてP2Pの電力取引が始まった
小型太陽光が急速に普及したバングラデシュ。時代を飛び越えてP2Pの電力取引が始まった

 
 ◇顧客6000世帯へ
 
 ソルシェアはP2P取引の売買プラットフォームを提供し、取引手数料を徴収する。ビジネスとして軌道に乗るかは不透明だが、既に3千世帯の顧客を抱え、近く6千世帯への拡大を見込む。

 携帯電話の普及に伴い通信環境が整っていたことも追い風となり、大規模送電網を介さず近隣の住民同士で発電した電力を融通するP2Pを形にしてみせた。

 「バングラデシュで築いたP2Pのモデルは世界のユーティリティーの将来像になるはずだ」(グロー氏)。そこでは電源を調達し、同時同量を保ちながら小売りする“電力会社”が存在しない。安定性に懸念はあるが、太陽光の電力を計測し、過不足なく売買する“サービス”のみで電力供給を成立させている。

 ソルシェアはあまたあるスタートアップ企業の一つにすぎず、事業の成否を判断するのは時期尚早だ。それでもバングラデシュで具現化されたモデルは、電気事業が直面し得る変化の芽として捨て置けない怖さを秘める。
 
 ◇大転換の矛盾
 
 こうした変化を読み解くキーワードは、電気事業で最近注目を集める「D」。再生可能エネと蓄電池の普及に伴う供給システムの分散化(Decentralization)や、デジタル化(Digitalization)が、従来の枠にとどまらない巨大なうねりをもたらしている。

 変化が進んだ将来に電気事業、電力会社の姿はどう変わるのか。先進国としてその問いに直面しているのが、ソルシェアを生み出したドイツだ。FIT導入後、風力を中心に再生可能エネの導入量が急増。17年の発電電力量に占める風力の割合は約16%で、太陽光と合わせた変動電源の割合が2割を超えた。

 だが、ベースロード電源と調整力の両面で石炭火力への依存度が高く、二酸化炭素(CO2)排出削減が進まない。再生可能エネの負担金が上乗せされた電気代は欧州トップクラス。特に、家庭に重い負担を強いる。

 脱原子力と再生可能エネを柱とする同国の「エネルギーヴェンデ(大転換)」は、多くの矛盾を抱えるのが実態だ。一方で民間ビジネスに目を向けると、極端な政策に適応するような技術・サービスの新潮流が出てきた。
 
 欧州屈指の経済大国として、「D」がもたらす変化に直面するドイツ。VPP(仮想発電所)や蓄電池ソリューションで新規参入者が相次ぎ、大手電力が分散化に対応したサービス開発や事業再編を加速する。現地を取材した。

電気新聞2018年5月17日
 
 「Dの胎動・ドイツ分散型ビジネス最前線」は現在連載中です。続きは電気新聞本紙、または電気新聞デジタル(電子版)でお読みください。