申請費用、査定通じて圧縮

 
 一般送配電事業者10社は7月末、2023年度開始のレベニューキャップ制度に基づく収入上限を経済産業省に申請する。電力需要が伸び悩む中、再生可能エネルギー大量導入に向けた送配電網投資確保とコスト効率化の両立が新制度の目的だ。10社は第1規制期間(23~27年度)の収入上限確定に向け、今後5年間の送配電事業の方向性を示した事業計画を作成。その実施に必要な費用を見積もって申請する。電力・ガス取引監視等委員会は、10社のうち効率的な事業者の実績値を用いた統計的査定などを行う。一般送配電事業者の申請費用は一定程度圧縮される。(近藤 圭一)

 レベニューキャップ制度は、20年6月に成立したエネルギー供給強靱化法の電気事業法部分に書き込まれた。一般送配電事業者は国の指針に基づき、停電量抑制や再エネ接続回答期限の超過件数など、5年間の規制期間に達成すべき目標を盛り込んだ事業計画を策定し、必要な費用を見積もる。国は一般送配電事業者が積み上げた費用を査定し、収入上限として承認する。承認後、一般送配電事業者はその範囲内で託送料金を申請し、国から認可を受ける。

 収入上限は5年ごとに設定する。23年度~27年度が第1規制期間、28年度~32年度が第2規制期間といった具合だ。一般送配電事業者には少なくとも5年に1回、託送料金変更の機会が訪れる。事業計画に基づきコストを積み上げることで収入上限が決まるため、7月末から始まる第1規制期間に向けた査定プロセスは、既存の総括原価方式に近い。

 査定は、人件費や委託費などのOPEX(事業経費)、新規投資、更新投資などのCAPEX(設備投資関連費)に分ける。OPEXは、一般送配電事業者の創意工夫の余地を残すため、個別費用ではなく全体で査定する。「重回帰分析」と呼ばれる統計学の手法を用い、全社の平均的な効率性を反映。これに加え、10社のうち上位事業者の効率性を反映するトップランナー補正で費用を圧縮する。監視委の有識者会合で決めた統計的手法に沿って粛々と進む方向だ。CAPEXは、マスタープランなどに基づき必要な投資量を確認。その上で、単価を過去実績に基づく個別査定や統計的査定で見る。

 こうした査定を経て国は上限を承認する。収入上限に基づき、一般送配電事業者が向こう5年間の託送料金を申請。議論が間に合わなかったため、費用配賦、レートメークなどの託送料金算定ルールは現行版を適用する。収入上限が確定することで託送料金水準は事実上固まるため、この断面では大きな論点はない。
 

予期せぬ負担、回収可能に

 
 5年後の第2規制期間の収入上限は、見積もり費用の査定に加え、前期の実績を踏まえた調整を加味して決まる。期初に定めた目標の達成状況で収入上限の上げ下げが行われる。加えて、効率化によって実績費用が収入上限を下回った場合の利益について、一般送配電事業者のインセンティブを確保するため、翌期に持ち越して一定程度収入上限に反映することが認められた。これまでの託送料金制度にはなかった、レベニューキャップならではの仕組みといえる。

 また、一般送配電事業者がコントロールできない費用が膨らんだ場合は、翌期の収入上限にそのまま反映されるため、一般送配電事業者の経営悪化を回避できる。例えば気温や景気、自然災害、人口増減など、外生的要因で決まる電力需要について、期初の想定を下回った場合は、翌期の収入上限が上げ調整される。需要が想定を上回った場合は下げ調整となる。一般送配電事業者は自社のコントロールできる範囲で業務に専念できる。

 加えて、制御不能費用を新たに定義し、収入上限に反映して回収できる仕組みも設けた。急増する最終保障供給に伴う費用などが該当する。新たに容認されたスポット市場での調達も含め、託送料金で回収できる。インバランス収支の過不足や、小売電気事業者撤退に伴う貸倒損も制御不能費用に分類された。申請時に想定した制御不能費用から乖離が生じた場合、翌期に調整する。ただ、累積変動額が収入上限の5%に達した場合は、期中調整となる。

電気新聞2022年7月7日