欧州では電気自動車(EV)の普及に伴い、スマート充電によりEVバッテリーをDSF(デマンド・サイド・フィージビリティー)に活用するビジネスが増加している。スマート充電は、一方向でのV1GやTOU(時間帯別料金)を活用したダイナミックロード管理から始まり、現在はV2Gも増加している。英国の電力小売事業者であるオクトパス・エナジーのグループ会社であるオクトパス・エレクトリック・ビークル(オクトパスEV社)は、EV導入をワンストップで支援するサービスの一部として、TOUメニューによる一方向サービスとV2Gによる双方向でのスマート充電サービスを提供している。

 欧州における家庭用需要家のアセットのうち、EVバッテリーをDSFとして活用する事例は、EVの普及に伴い増加している。EVバッテリーのDSF活用方法について厳密な定義はないが、一般的にはV1G・V2Gを含む通信での接続かつ、制御可能なEV充電全般が「スマート充電」と定義されている=図1


 
 当初、欧州市場ではV1Gを含む一方向での充電制御サービスが注目されていたが、現在は技術の進展によりV2Gを含む双方向でのサービスが商業化され始めている。

 具体例として、V2Gを含む「スマート充電」によりEVバッテリーをDSFとして活用しているオクトパスEV社を紹介する。
 

DSF活用料金は2種類。一つは料金+充電タイミング制御型

 
 オクトパスEV社は2018年に設立。EV導入に関するアドバイスを顧客へ提供し、EV車両リース、充電器、料金メニューをバンドリング提供することで、顧客のEV導入における課題をワンストップで解決することを目指している。同社では顧客のEVバッテリーをDSFへ活用するサービスとして、オクトパス・エナジー社と連携し、2種類のスマート充電サービスを提供している=図2

 1つ目のサービスは、一方向でのダイナミックロード管理である。

 オクトパス・エナジーの提供する料金メニューと併せて充電タイミングを制御することで、顧客の電力調達コスト(kWh)の最小化を支援している。料金メニューは、深夜0時半から午前4時半が安価となる「オクトパスGO」、市場連動価格の「アジャイルタリフ」の2種類あり、いずれかを選択可能である。
 

EVのプラグインでリベート支払い。充放電を制御

 
 2つ目のサービスは、双方向でのV2Gである。

 同社は英国のDSO(配電事業者)であるUKPN社、アグリゲータであるオープン・エナジー社との提携による実証プログラムとして、EVリースとV2Gサービスのバンドリングである「パワーループ」を開発した。顧客は日産リーフを月額定額で使用できるほか、1カ月当たり12日以上、午後6時から午前5時までEVをプラグインにすれば、毎月30ポンドがリベートとして還元される。

 EVバッテリーの充放電タイミング制御により創出されるDSFを、UKPN(DSO)による配電設備投資の回避もしくは延期に活用することで、顧客が一定の収益を得られるスキームを構築している。

 しかしDSF活用は同社サービスにおける訴求ポイントの一つにすぎない。最大の特長は、EV購入に付随する顧客の煩雑な手続きや準備(EV車種選定、家庭用充電器の設置、公共充電アクセス、エネルギー料金申請など)の解決策をバンドリングし、ワンストップで提供している点である。

 このように、顧客ニーズを中心としたビジネスモデルの一部としてDSFを活用する視点は、今後日本市場でのDSFサービス構築における重要な示唆となる。

【用語解説】
◆V1G 
グリッドサービスを提供する一方向のスマート充電。EVバッテリーへの充電タイミングを制御することでDSFを創出。グリッドサービスを提供しない場合は、サービス内容に応じてダイナミックロード管理/コネクティド充電と呼ばれる。

◆V2G 
グリッドサービスを提供する双方向のスマート充電。EVバッテリーへの充放電タイミングを制御することでDSFを創出。グリッドサービスを提供しない場合はローカルサービスを強調するためV2X(V2H/V2B)と呼ばれる。

電気新聞2021年3月8日

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