DX関連施策に取り組む国交省。建設業においてもデジタル技術の活用は様々な可能性を秘めている

 

プロセス、部門に横串

 
 IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)など活用し製品・サービスの質を高め、企業文化と働き方を変革する――。金融や製造業に根付きつつあるDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が建設業にも広がってきた。

 背景にあるのは業界特有の労働生産性の低さだ。製造業のように同一製品を大量に生産するわけではなく、建設業では建築・土木を問わず単品現場生産で、プロジェクトも長期にわたるため、そもそも効率化の取り組みが実を結びにくい。受注者の業務は細分化され、ライフサイクルを一貫して統合管理することも困難だ。
 
◇現場主体を転換
 
 しかし、慢性的な担い手不足の解消は急務で、高度経済成長期に集中投資されたインフラの老朽化対策も待ったなしの状況。新型コロナウイルスの感染拡大がこれらに拍車をかけるとともに、現場主体の建設業にも非接触型・リモート型への転換を迫る。

 国土交通省は2015年、(1)ICTの全面的な活用(2)規格標準化など全体最適の導入(3)施工時期の平準化――の3本柱で構成される「i―Construction」と呼ぶ施策を打ち出した。ICTの拡大では、調査・測量から設計、施工、維持管理に至るまで建設プロセス全体に新技術を取り入れ、生産性を高める。25年度に労働生産性の20%向上を目標に掲げた。

 20年7月には省横断の新組織「インフラ分野のDX推進本部」を新設。行動、知識・経験、モノのDX化を推し進め、今後予想される熟練労働者の大量離職に対応するとともに、労働環境の改善につなげようとする試みだ。

 本部長を務める山田邦博技監は1月の会合で「国民目線でDXがどう役に立つかを積極的に発信していく必要がある」と、業界の枠を超えた取り組みの必要性を強調した。推進本部では、国交省の各部局でそれぞれ進められているDX関連施策に「横串を通す」(技術調査課)狙いから、今後の工程などを一覧表に落とし込んだアクションプランを近く策定する予定だ。

 建設DXの効用は多岐にわたる。コロナ禍においても「3密」を避け、現場機能の維持を図るため、ウエアラブルカメラの映像データを監督・検査などに生かしたり、施工の段取りやインフラ点検といった熟練技術者が持つ“暗黙知”をAIで可視化することなどがその一例といえる。
 
◇BIM導入加速
 
 デジタル技術活用の可否を分けるのが3次元モデルデータの広がりだ。国や大手ゼネコンが中心となり、BIM/CIM(ビルディング/コンストラクション・インフォメーション・モデリング)を導入する動きが加速している。コンピューター上に3次元モデルデータを構築し、コストや管理情報など属性データを追記。データは共有し、常に最新の状態に更新される。

 国交省は当初目標を2年前倒しし、23年度には小規模案件を除いた公共工事にBIM/CIMを原則適用する絵を描く。建設分野のデジタル技術に詳しい大阪大学大学院工学研究科の矢吹信喜教授は「詳細設計の完成度を上げ、3Dモデルデータの活用レベルを高めることで、建設業は最先端の自動車産業のような姿に近づいていくのではないか」。未来を大胆に予測する。 

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 「重厚長大」と形容される建設業。製造業などと比べると、デジタル化が十分に進んできたとは言い難い。ただ、生産年齢人口の減少は深刻の度合いを増しており、24年度には残業時間の上限規制の適用が控える。労働生産性を高めつつ、こうした課題を解決するには建設生産プロセスの垣根を越え、いかに無駄を省き、効率化を図れるかにかかっている。DXは果たして建設業においても福音となり得るか。実装前夜の業界の動向を追った。

電気新聞2021年2月26日

※「実装前夜・建設業のDX」は現在連載中です。続きは電気新聞本紙でお読みください。