
俗に「専用線」と呼ばれる線路がある。企業などが所有し、工場からの製品出荷などで使われる線路のことだ。重電メーカー大手の東光高岳も小山事業所(栃木県小山市)から延びる約2キロメートルの専用線を持ち、電力の安定供給に欠かせない大型変圧器の輸送を支える。近年では製品出荷の実績はないが、今も運行訓練などを中心に年に数回、ディーゼル機関車が走行する。沿線には柵がない地点も多く、大半の踏切に遮断機がない。運行当日は同社社員が沿線を駆け回り、事故防止に目を光らせる。
小山事業所に専用線が敷かれたのは同事業所が開設した1962年。小山駅から他社の工場まで延びていた専用線を延長する形で開通した。全線非電化で、東光高岳が所有するディーゼル機関車が走行する。
主な用途は変圧器の輸送だ。20万kVAクラスなど重量が100トンを超え、トラックでの輸送ができない製品を運ぶ。
◇機関車で
7月中旬、3月に続き今年2回目となる機関車の運行に立ち会うため、専用線の小山駅側の終点付近で待ち構えた。
周辺は閑静な住宅地で、周辺には田んぼも広がっている。ここまで住宅地を縫って伸びてきた線路は大きなカーブを経て、工場地帯へとつながっていく。
「プアーン」。正午前、事業所からの出発を告げる汽笛が響いた。工場から約2キロメートルは離れていたが、しっかりと聞き取れる。
待つこと約10分。ゴトゴトと音を立て、青色の機関車がカーブの先からゆっくりと姿を現した。踏切手前での停車を繰り返しながら、少しずつ終点に近づいていく。
線路の保全などはJR貨物に委託しているが、機関車の運行は電力プラント事業本部運輸グループの社員が担う。機関車には運転士に加え、手旗で出発や停止などの指示を出す社員も乗務する。
踏切は全6カ所。このうち、警報機、遮断機があるのは1カ所のみ。遮断機がない踏切での安全確保も東光高岳の役目だ。
機関車が近づいた踏切では赤い旗を持った社員が待機。旗を下ろし、機関車が通過するまで自動車や歩行者の往来を止める。通過後は次の担当箇所まで自動車で移動するため、なかなか慌ただしい。
この日、専用線の終点まで移動した機関車は数十分停車した後、来た線路を戻っていった。小山事業所を出発してから約1時間後、無事に事業所の留置線に帰った。
◆地域の協力
運輸グループでは、運行の1カ月ほど前から周辺の住民や工場に運行を周知し、注意喚起する。線路周辺の草木の伐採なども外部の業者に手配する。運行当日は、同グループの8人が運行管理に携わった。
所有するディーゼル機関車は2両。以前は運転もJR貨物から出向する運転士に任せていた。
ただ現在は、自前で運転士を確保する方針に転換している。
この日に運転を担当したのは、石井秀知副課長。10年ほど前、JR貨物の養成所で半年ほど訓練を受け、運転に必要な「甲種内燃車運転免許」を取得した。
運転中は全く気が抜けない。沿線は通常の鉄道路線のように柵で仕切られているわけではなく、立ち入ろうとすれば簡単に入れる。過去には、機関車の目の前を飼い犬が横切ったこともあるという。
線路を廃線と思っている通行者も少なくない。踏切で一時停止する自動車は皆無で、社員の手旗は事故防止の要となる。
機関車は緊急時にすぐに止まれるよう、最高速度は時速15キロメートルに制限。踏切でも必ず停止し、自動車などの往来がないことを確認しており、約2キロメートルでも移動に10分以上の時間を要する。
◇技術維持
運行に手間と費用のかかる専用線だが、大型変圧器の運搬実績は2016年が最後。近年の製品はトラック輸送が中心となり、当面も予定はない。
ただ、大型電力設備の市場が活況を呈する中、再び運搬で使われる可能性は十分考えられる。将来を見据え、運行ノウハウの維持は大きな課題だ。
東光高岳では3カ月に1回程度、JR貨物の立ち会いの下で運転訓練を行い、運行技術の維持に努めている。
東光高岳の運転士は石井副課長を含め2人。技術伝承の観点で運転士の増員も検討しているという。
運行を終えた石井副課長は「無事に運行できて安堵している」と胸をなで下ろし、「いつ(輸送の案件が)きても良いよう備え、今後も安全運転を続ける」と決意を語る。
いかなる機器も、しかるべき場所へ運ばれなければ真価を発揮できない。どうすれば目的の場所へ、安全かつ正確に運べるのか――。電力の安定供給は円滑な機器輸送に心を砕く人たちにも守られていることを、忘れてはならない。
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電力の安定供給の確保が重視される中、万全を期すために努力や工夫を続ける現場の模様をシリーズで伝えます。
電気新聞2026年8月10日





