火力発電所の排ガス中に含まれる窒素酸化物対策では、選択触媒還元方式による脱硝装置が主流で、長年の運用実績により高い信頼性が確立されている。一方、脱硝触媒は希少金属を多用するため高価。長期間の使用で脱硝性能が低下するため定期的な取り換えが必要で、コスト負担が大きい。性能劣化要因を把握し延命化技術が確立できれば、コストと産業廃棄物を大幅に低減できる。本稿では脱硝触媒の延命化技術として、中国電力が長年取り組んできた再生技術と低温化技術の開発について紹介する。

2025年度中国地方発明表彰特許庁長官賞を受賞した脱硝装置触媒研磨装置(脱硝触媒の研磨再生装置:特許第7464523号)

 中国電力は1979年、下松発電所2号機に石油火力では世界初となる選択触媒還元方式による脱硝装置を導入。以来、触媒の性能評価や再生に関する独自技術の開発に取り組んできた。

 窒素酸化物を窒素に無害化するためアンモニアを注入する。その脱硝装置の性能管理には、触媒出口の未反応アンモニアを把握することが重要だ。当社は、低濃度のアンモニアを高精度に測定する可搬式装置と、実機から取り出した小ロットの触媒を対象に実機を模擬したガス条件で評価できる試験装置を開発。これら装置を基盤に、アンモニア注入量と注入バランスを最適化するとともに、触媒取り替え時期や対象となる触媒層の選定など、独自の運用手法を確立した。その上で、コスト低減と廃棄物削減による環境負荷軽減を目指し、触媒再生技術を開発。また、電気集じん機の後段に設置できる、低温領域でも高い活性を示す新しい触媒の開発にも取り組んできた。

 (1)触媒再生技術

 触媒劣化の要因には、主に(1)排ガス成分による触媒表面の被覆(2)アルカリ金属などによる被毒(3)熱的劣化――があることが分析を通じて明らかになった。そのため、以下の再生技術の開発に取り組んできた。

 第1に、排ガス成分を除去する水洗浄による再生に取り組んだ。しかし、除去可能な物質が水溶性に限定され、十分な性能回復効果が得られない場合があり、適用先に制約があった。

 第2に、劣化した触媒に活性成分を補う技術として、薬液含浸再生に取り組んだ。ただ、濃度次第では硫黄酸化物の塩が析出し、後流の熱交換器が閉塞する恐れがあることが分かった。

 このため現在は、触媒表面の被覆層や劣化層を研磨材で物理的に除去する研磨再生の技術開発を進めている。本技術では、厚さ数十マイクロメートルの被覆層を精度よく研磨する必要性があり、高度な技術が求められる。一方で、触媒に化学的な影響を与えないという大きな利点がある。

 当社とハシダ技研工業(大阪市平野区、吉岡亨浩社長)はこの難易度の高い研磨技術を開発。新小野田発電所1号機、2号機で実用化している。今後は社外展開を進めていく方針だ。

 (2)低温化技術

 従来の脱硝触媒は、300~400度の高温域で高い活性を示すため、ボイラー出口直後に設置されている。しかし、排ガス成分による触媒表面の被覆形成や、燃焼灰などの粒子による閉塞やエロージョンの影響を受けやすく、これらが触媒性能低下の主な要因となっている。このため、性能低下の影響を受けにくい電気集じん機後段への設置が望ましいが、主に使用されている電気集じん機は、集じん効率や耐熱性の制約から比較的低温域に設置されている。

 低温域で高い活性を示す触媒があれば、電気集じん機後段へ設置でき、触媒の延命化にもつながる。この考えの下、低温脱硝触媒の開発を進めている。

 その結果、硫黄酸化物への耐性は低いものの150度で高い活性を示す触媒を開発。昨年10月には試験研究用途向けとしてハルタゴールド(札幌市北区、江本慎治社長)が触媒粉末の販売を開始した。

 カーボンニュートラルに向けた流れの中、産業プラントなどでも脱硝触媒の低温化ニーズは高まっており、幅広い分野での適用可能性について調査・検討を進めている。

 次項では、低温脱硝触媒の共同開発者で、現在、二酸化炭素と水素からメタノールを合成する触媒開発の共同研究に取り組んでいる北海道大学触媒科学研究所の村山徹教授が、二酸化炭素を資源として活用する触媒技術について紹介する。

電気新聞2026年6月8日