電気学会は電気技術の幅広い専門家を擁する強みを生かし、「社会連携」の取り組みを進めている。東日本大震災を契機にワーキンググループ(WG)を立ち上げ、一般向けに電気の知識を深めてもらう小冊子を作成。その後常設の委員会へと移行し、教育機関とも協力関係を築きつつ動画などのウェブコンテンツを提供している。同委の全体会合は非会員の参加も歓迎するなど、開かれた姿勢で社会との連携を目指す。(編集委員=新田剛大)

大来 雄二氏

 2011年の東日本大震災では太平洋岸の原子力・火力発電所が軒並み被災し、膨大な供給力が一挙に失われた。状況を理解すれば計画停電はある意味当然ともいえたが、世の中は批判一辺倒。金沢工業大学の大来雄二客員教授は、こうした状況が電気学会としても「電気技術について分かってもらうための努力が不十分だった」という反省につながったと振り返る。

 電気学会は翌年、一般向け技術啓発書を刊行するWGを設置。幅広い技術領域の専門家が議論を重ねて分担執筆し、「電気の知識を深めよう」と題した小冊子を16年までに全7冊発行した。後を引き継いで発足したWGは小冊子を「使う」ことに注力。イベント会場などで無料配布しても「積ん読、チラシと一緒にごみ箱行き」では意味がない。

 ◇活用を推進

 WGメンバーによる授業や企業の研修などで、小冊子を積極的に活用してもらう取り組みを推進。放送大学での対面型授業での活用や高校教員の全国組織である日本理化学協会との連携といった形で実を結び始めた。

 WGは3年間の期限付きだったが、終盤に電気学会内で後継組織の議論が浮上。20年度に常設の「社会連携委員会」が発足した。社会連携の英訳は「Social Engagement」。科学技術者として社会的責任を果たす「エンゲージメント(約束)」という意味を込めた。

 ◇幅広く提供

 前身のWGから委員会へ活動を引き継ぐに当たり、立ち上げたのがウェブサイトだ=写真。過去に作成した冊子の電子版や動画教材、実験教材の解説書のほか、連携する教育機関などの「つながる窓口」も示す。活動の軌跡を残すとともに、電気・エネルギー教育に取り組む関係者が活用できる様々なコンテンツを提供している。

 社会連携委員会には情報共有と意見交換を行う「全体会合WG」を設けている。情報入手を目的とした「ROM」メンバーや学会非会員の参加も歓迎するユニークな組織だ。さらに実務を担うWGがあり、現在は各世代への教育支援のほか、ニコラ・テスラや電気学会の創設者である志田林三郎の伝記もまとめている。

 26年刊行予定のテスラ伝には人となりや業績を伝える物語だけでなく、中学・高校の「総合的な学習の時間」での利用を意識した情報も記載。医療分野の専門家が「テスラ」が性能の単位となっているMRI(磁気共鳴画像診断装置)の記事を寄せるなど、電気分野を超えた連携も実現した。

 活動に当初から関わってきた大来氏は「委員会を通じて社会連携の活動が広く知られ、さらに取り組みたいという人が増える環境をつくっていければ」と意気込む。

電気新聞2025年12月26日