2024年「EV(電気自動車)市場は失速した」という論調が日本を覆った。しかし、データが示す現実は異なる。世界31カ国で、市場立ち上がりの目安といわれる普及率5%を超え、中国や北欧諸国など普及率5割を超える国も現れている。停滞したのはドイツなど欧州の一部と日本のみであり、世界全体の販売台数は右肩上がりを維持した。25年に入ってガソリン車と同等価格帯の大衆車EVが続々と市場投入され、成長は再び加速している。日本が直面しているのは「EV市場の停滞」ではなく、グローバル競争からの明確な脱落である。

 ◇所得停滞と価格上昇が描く現実

 背景にあるのは、日本特有の社会構造である。世帯年収は30年近く横ばいを続ける一方、安全機能や快適装備の高度化により車両価格は全体で50万~100万円上昇した。さらに高価格帯に位置するEVは、もはや多くの家庭にとって「選択肢」ですらない。

 皮肉なことに、EVと本来最も相性が良いはずの地方・郊外一戸建て住宅が多く、ガソリンスタンドや公共交通が消失しつつある地域でさえ、普及は進んでいない。この背景にあるのが、価格障壁の高さである。

 ◇成功体験が生んだ産業構造の硬直化

 もう一つの要因は、日本の自動車産業が抱える構造的課題である。長年のハイブリッド車での成功体験が、EV投資の意思決定を遅らせた。欧州や中国のメーカーがEV戦略に舵を切る間、日本は旧来の勝ちパターンに固執し続けた。

 政策も新車購入支援に偏重し、中古市場の育成は置き去りにされた。その結果、国内で売れない中古EVの約8割が海外に流出するという異常事態を招いている。

 これは単なる商流の問題ではなく、国内における資源循環を根本から阻害する構造的欠陥といえる。

 ◇「見えない劣化」が市場の信頼を蝕む

 消費者心理にも深刻な壁が立ちはだかる。中古EVは価格が下がっても買い手がつかない。

 理由はバッテリー性能への不安、とりわけ劣化による航続距離の不確実性にある。

 ガソリン車であれば、走行距離や整備履歴から車両状態をある程度推測できる。しかし、EVでは「電池の見えない劣化」が全てを不透明にする。中古車市場において、価値判断の根幹が欠落しているのだ。

 ◇解決のカギは「予測技術」

 この不安を解消する有力な手段が、バッテリー寿命の「予測技術」である。ガソリン車では部品摩耗を点検で把握できるが、EVの資産価値は電池残存性能に直結するため、将来性能を予測できなければ市場は成立しない。

 実測診断は確実だが、予測には大量・長期のデータが必要なため対応車種は限られる。販売台数が少ない車種や新しいモデルではデータが不足し、実用に足る予測精度が得られない。



 そこで重要となるのが「モデルベースシミュレーション」だ。走行パターン、気候条件、車両・電池特性を数式化し、将来劣化を推定する。このモデル予測を実測や統計予測と補完的に組み合わせることで、広範かつ高精度な性能評価が可能となり、中古EV市場の信頼基盤が築かれる。

 ◇中古市場が、普及と循環の突破口

 健全な中古EV市場が機能すれば、「価格の壁」と「資源循環の壁」を同時に突破できる。世界が大衆車EVで再加速する今、日本は新車偏重の思考から脱却し、リユースを軸としたサーキュラーエコノミーを構築できるかが問われている。

 停滞を嘆くのではなく、遅れを逆手に取り、循環型市場のグローバルモデルを創出する。

 そこにこそ、日本が再び世界をリードする最後の機会がある。

電気新聞2025年11月17日