今回の連載もこれが最終回である。電気屋馬場博幸の拙い話を並べさせて頂いたが、今回は、現在の電気自動車(EV)の元祖とも言える三菱自動車工業のi―MiEV(アイミーブ)のプロジェクトマネージャーを務められた和田憲一郎さんとの対談形式でクルマの未来像をお届けしたい。和田さんは、現在株式会社日本電動化研究所(略称・電動化研)の代表取締役をされており、私が最も敬愛する自動車のスペシャリストでいらっしゃる。
馬場 和田さんはアイミーブのプロマネでいらっしゃいました。その当時のEVの世界的な状況を伺えますか。
和田 私が開発に着手した2005年頃は、過去に試作EV車があっただけで、量産車はありませんでした。当時、リチウムイオンバッテリー搭載の携帯電話が出始め、それをクルマ用に大型化できないかと研究部門は考えた訳です。それで、リチウムイオンバッテリー、モーター、インバーターなどの試作部品による試作車が割と良い評価を得たことから、私が量産化を任された訳です。
数多くの実証試験車を走行させて信頼性を築きあげて量産化への目途をつけ、09年に世界で初めて量産タイプのEVとして市場投入できました。通話を主眼とする初期の携帯電話が、現在のスマホを想定していなかったのと同様に、EVもICE(内燃機関)と同等の品質を確保することが目標で、EVとしての拡張性などは案として考えられる程度でした。
馬場 この連載でも少し触れましたが、SDVという言葉が流行っています。和田さんはSDVをどんなものと捉えていらっしゃいますか。
和田 SDVとは、通信機能を使って車を制御するソフトウエアを更新し、販売後も機能を増やしたり性能を高めたりできる自動車のことを言います。その代表例は、テスラが12年に発売したモデルSです。この車はOTAによって、多くの機能が更新できるようになっていました。
特筆すべきは、23年、運転支援機能の一部が不適切であるという米国道路交通安全局からのリコール指摘に対し、200万台の車両をOTAで一度に解決してしまったことです。さらにテスラでは、サンタモードというエンタメ的な機能も、ユーザーがアップデートできるようになっていることも特徴です。
馬場 私自身はアメニティーなどではなく、クルマにもっと骨太の機能を期待しています。例えば、絶対逆走しないクルマ、あおり運転できないクルマ、全体最適の仕組みによって渋滞を起こさないクルマなどです。このような方向性はないのでしょうか。
和田 多くの可能性を秘めていると思います。人間の通常の運転操作以外に、悪意のある運転などに制限をかけることもできるのではと思っています。
馬場 私自身もEVユーザーなのですが、出先での充電には不安を感じることは多いです。充電インフラなどについての和田さんのお考えを伺えますでしょうか。
和田 充電インフラといっても多様な方法があります。一般的な普通充電と急速充電以外にワイヤレス給電、走行中ワイヤレス給電が検討されています。中国におけるトラックではバッテリー交換方式が今後主流になると言われています。
馬場 最近、世界的にEVの販売数の低下が報じられています。EVの販売不振についてどのように見てらっしゃいますか。
和田 EVシフトは一直線に伸びていく訳ではありません。アップダウンを繰り返しながら、今後も右肩上がりを続けていくでしょう。国際エネルギー機関(IEA)によると、35年には世界規模でEV(BEV)+PHEVで55%まで達すると予測されています=図。中国や欧州ではより高い比率となり、日本ではそれより低いレベルと予想されます。

馬場 先日、日本の完成車メーカーの合従連衡の話が大きなニュースになりました。スケールメリットなど競争優位の必要条件としてどんなことが考えられるでしょうか。
和田 スケールメリットは重要と思いますが、必ずしもそれだけではないと思います。SDVを達成しようとすると、自動車メーカーはIT事業者などとの連携、資本提携などが必要と思います。特に日本では自動車メーカー自身が充分なIT人材までそろえることは難しいので、異業種との連携が必要だと思います。ITに造詣が深い人材の経営層への登用も必須でしょう。(この項おわり)
◆用語解説
◆OTA Over The Airの略。無線経由でコンテンツなどのダウンロードやソフトウェアを更新するなどの技術。
◆IEA International Energy Agencyの略。OECDの加盟国の一部によって組織され、エネルギーに関する調査や統計を担っている。
電気新聞 2025年5月26日
和田憲一郎氏/日本電動化研究所 代表取締役
三菱自動車工業に入社後、2005年から新世代電気自動車「i―MiEV(アイ・ミーブ)」開発責任者(プロジェクトマネージャー)などを歴任。09年に発売後は本社にて急速充電に関する協議会であるCHAdeMO協議会にも幹事メンバーとして参画し、EV充電インフラ整備を牽引。その後、日本電動化研究所を設立し、現職。





