重電で内製化の動き

 
 国内原子力部品産業のサプライチェーン(供給網)が、欠落し始めている。日本原子力産業協会の調査によると、東京電力福島第一原子力発電所事故があった2011年以降、約20のメーカーが原子力部品の製造事業から撤退した。部品産業を維持しようと、三菱重工業は撤退した企業から設計図面を受け取り、部品や工具の内製化に着手。同時に代替の事業者も探し始めている。日立製作所も部品の内製化を選択肢に入れている。

 原子力関連の固有技術を持つ企業は、国内で400社以上存在する。福島第一事故以降、国内で原子力発電所の新設がなく、こうした企業は経営状態が悪化している。近年は撤退の動きが顕著で、12~18年度までは累計で10社の撤退にとどまっていたが、19年度と20年度は5社ずつ撤退。一部部品の供給が危うい状況になっている。

 この状況を受けて三菱重工は、設計図面の回収を進める。18年にはナットを締め付ける工具「スタッドテンショナー」を内製化。機器の材料となるステンレス鋳鍛鋼も主力となる調達先が撤退したため、他社に製造を依頼する検討を始めている。こうした部品や材料調達のめどは立ちつつあるが、内製化や製造元の変更時は、一から品質を検証する必要がある。製造場所の変更で、部品のコストが高まる懸念もある。

 他の国内原子力機器大手も対応に動いている。沸騰水型軽水炉(BWR)を手掛ける日立も部品の内製化を視野に入れる。国内のBWRは福島第一事故以降、再稼働には至っていないものの、運転再開を見据えてサプライチェーンの状況を精査している。

 原子力機器産業全体では部品を特注ではなく、汎用品に切り替える取り組みも進める。ただ、部品メーカーの撤退が加速すれば、サプライチェーンを維持する大手メーカーの取り組みにも限界が来る。現状で国の原子力事業向け補助制度は、大手メーカー向けがほとんど。このため、部品メーカーは「サプライチェーン全体を維持するための国の補助が必要」と口をそろえる。

 原子力プラントの新増設は、計画から稼働までに10年以上の期間を要する。仮に現状で新増設案件が出たとしても、メーカーは実機製造までに5年程度待つことになる。部品メーカーの空白期間を減らし、サプライチェーンを活性化させるためにも、新増設の在り方も含め、国が明確に将来ビジョンを打ち出すことが重要になる。
 

政策に影、国も危機感

 
 サプライチェーンの現状には国も危機感を募らせている。原子力は国内企業に技術が蓄積されている分野で、1970年以降に運転を開始したプラントは大半が90%を超す国産化率を誇ってきた。東京電力福島第一原子力発電所事故後もサプライヤーは、新規制基準を受けた安全対策工事でどうにか事業を維持してきた。

 しかし、原子力産業の将来性が見通せない中、BWR用燃料部材を供給してきた企業が2017年に、原子炉圧力容器部材を供給してきた企業が20年にそれぞれ廃業。2月に再開された総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)原子力小委員会では今後の議論の論点として「サプライチェーンの維持・強化」を挙げている。

 エネルギーを巡る国際情勢が大きく動く中で、原子力は再評価されているが、いざ新増設に踏み切ろうとしても供給網が確保されていなければ政策変更しにくい。ウクライナ危機を受けて、ロシア産天然ガス依存が高いドイツが原子力の延命を検討したが、22年の全基廃止を前提としていたため人も技術も離散。結果、エネルギーの選択肢を狭めた。

電気新聞2022年3月17日