[ウクライナショック]識者の見方/森本 敏氏

「対中国」念頭の戦略 不可欠に


森本 敏氏

 

森本 敏氏
拓殖大学顧問 元防衛大臣


 

 ロシアによるウクライナへの侵攻開始から(3月末までの)約5週間の戦闘を見る限り、ロシアの劣勢は否定しようがない。欧米から供与された兵器の精度やウクライナ軍の士気の高さが発揮された証だ。今後、国際政治におけるロシアの存在感は低下するが、相対的に中国の存在感は増すだろう。ただ、中国としてはプーチン政権の崩壊を恐れているはず。米国を中心とする西側にとって唯一の標的になりかねないためだ。

 一方、習近平国家主席は台湾統一を「歴史的任務」と考えている。(1)米がどこまで関与するか(2)軍事バランスを見比べて有利か――を見極め、実行時期を探るだろう。節目は台湾総統選と米大統領選がある2024年。台湾で強力な独立派の総統が誕生すれば、中国はそれを口実にする。

 ウクライナと台湾には決定的な違いがある。ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)から武器の供与を受けられた。だが、台湾に対しては米国以外からの軍事面の支援はできないだろう。

 中国人民解放軍が台湾に侵攻する際、打撃を加える可能性があるのは在日米軍。すると人民解放軍は在日米軍の戦力を先にそぐ可能性がある。その企図を阻止しようとする米軍を補備する存在は日本しかいない。対中戦略を念頭に置いた国防計画が問われている。

 ウクライナ危機が破壊した国際秩序は多岐に及ぶ。エネルギーだけでなく飼料、穀物価格の上昇を招き、ロシアやウクライナからの小麦供給量減少は、途上国の飢餓の原因になっている。気候変動の枠組みも崩壊した。

 日米欧は対露経済制裁を取っているが、サハリン1、2プロジェクトなどについては日本が権益を諦めた時点で中国にさらわれる。これは何としても避けねばならない。

 エネルギー安全保障の弱体化を招かないためには、既存軽水炉の運転期間延長に向けた手続きをしつつ、安全性の高い小型炉へのリプレースという選択肢を採らざるを得まい。そのための政治決断が欠かせない。
(聞き手・報道室長 塚原 晶大)

 <もりもと・さとし> 1965年防衛大学校電気卒、自衛隊航空隊入隊。防衛庁退職後、外務省入省。野村総合研究所主席研究員などを経て、2012年、民間初の防衛相として入閣。安全保障・防衛政策の専門家として広く活躍。

(談)


電気新聞2022年4月5日