[ウクライナショック]識者の見方/川口 マーン 惠美氏

経済は国家の要、「現実」を見て


川口 マーン 惠美氏

 

川口 マーン 惠美氏
作家


 

 今まで「ドイツと日本は似ていない」と書いてきたが、ウクライナ対応を見ていると「似ている」と思ってしまう。ロシアの侵攻は悪いことだが、ドイツの政治家は、全部プーチンが「悪」でウクライナが「善」、ゼレンスキーは英雄だと決めつけている。メディアも欧州連合(EU)西側の国ではそう報じているが、ハンガリーなどロシア寄りの国はそうではなく国益を考えて行動している。この点、日本はあまり国益を考えていないように見える。

 今、ドイツ国民でプーチンのことを良く言う人はいないが、歴史的にロシアとはつながりが深い。「ノルドストリーム2」も認可手続きを止めただけで、もしプーチンが失脚すれば「良いロシアになった」として動かすだろう。エネルギー政策や国防面でドイツは画期的な政策転換をしたと言えるが、それによって一番困るのはドイツ自身だ。そして、脱原子力、脱石炭、再エネの大幅増と、ロシアへの過度なガス依存の原因は全てドイツが自らつくってきたことなのだ。天然ガスの禁輸はなかなか難しいだろう。原子力は何年も前から廃止を計画していて、今になって稼働延長はない。

 ガスについては昨年9月頃に備蓄が足りないと言われ始め、年末には電力のブラックアウトが真剣に心配されていた。ガス逼迫による卸価格上昇で、すでにウクライナ侵攻前に電気代・ガス代は6割も上がっていた。

 ドイツの電気料金は前年の実績から弾き出された金額を12等分して毎月支払い、翌年、実費との差額を一括精算する方式。だから現在支払っている金額には進行中の高騰が反映されておらず、来年はどうなってしまうだろうと心配している。

 日本はEU加盟国でもないのに何も考えずに合わせているように見えてならない。経済は国家の要。経済が危うくなれば主権も民主主義も守れない。そして経済で何が大切かと言うとエネルギーだ。ずるくなる必要はないが、もっと現実的にならないといけない。
(聞き手・論説委員 山田 雄二郎)

 <かわぐち・まーん・えみ>シュトゥットガルト国立音楽大学院ピアノ科修了。長年のドイツ在住経験を生かしエネルギー問題などを精力的に発信している。著書に『無邪気な日本人よ 白昼夢から目覚めよ』他多数。

(談)


電気新聞2022年4月15日