
フランス北西部の港町シェルブール。カトリーヌ・ドヌーブ主演の名画の舞台で知られるが、第2次世界大戦ではフランス解放を目指した連合国のノルマンディー上陸作戦で激戦が繰り広げられた地でもある。
ここから南西に約10キロメートル。フランス電力(EDF)のフラマンビル原子力発電所が5月、日本の報道陣に公開された。1986年に運転開始した1号機、87年に運開した2号機に加えて2024年に3号機(EPR=欧州加圧水炉、165万キロワット)が竣工、調整運転を経て今春に本格運転を開始した。
07年に着工した建設は難航した。予定した12年の運転開始は大幅に遅れ、工事は17年間におよび、24年12月に送電開始にこぎつけた。建設費は当初計画の33億ユーロから132億ユーロに膨らんだ。この要因が東京電力福島第一原子力発電所事故である。安全規制が見直され、設計変更や追加工事が必要となった。もう一つが、技術や人材の喪失によるサプライチェーンの弱体化だ。
原子力発電所の新設は02年を最後に途絶えていた。同発電所のグザビエ・アルディ技術部長は「原発新設は四半世紀もの長い空白期間があった。黄金期を支えた人材の多くが退職し技術が継承されなかった。17年という歳月はその空白を一つ一つ埋めていく時間だった」と語る。
◇最大14基を新設
福島事故後、原子力依存度を下げる政策に転じた同国だが、エネルギー情勢の混迷を受け、マクロン大統領は22年に「原子力復活」を宣言、再び原子力推進に舵を切った。EPRを進化させたEPR2(新型欧州加圧水炉)6基の新設を決め、さらに8基の建設も検討する。
これに向け、23年には「原子力発電所の新設と既存施設の運転に関する手続きの加速化に関する法律」を制定。原子炉の建設許可や環境許可に関する地方自治体の手続きに関し、一部法律の適用除外や審査を国が代わって行うことを定め、敷地造成など原子力安全に関連しない工事は原子炉建設の許可を待たずに着工可能とした。
25年にはプラント新設や既設プラントの運転延長などの許認可審査の迅速化を目的に、安全規制局(ASN)と放射線防護原子力安全研究所(IRSN)を統合、原子力安全・放射線防護局(ASNR)を発足させた。
EPR2はパンリー、グラブリーヌ、ビジェイの各発電所に2基ずつ新設する。EDFはフラマンビル3号機の経験を生かし、工期の順守とコスト低減を探っている。38年までに初号機の運転開始を目指すという。
総投資額728億ユーロの60%は国の補助金付き融資で賄い、フランス預金供託公庫から資金調達する。事業の予見性を高めるため、国は運転開始から40年間1メガワット時あたり最大100ユーロの収入を保証する差額決済契約(CfD)を導入した。
建設が最盛期を迎える同国では33年までに10万人の新規雇用が必要と試算する。原子力人材の育成に今後10年間で1億ユーロを投じ教育や採用を一元管理する戦略も打ち出した。
シェルブールでは25年9月、新たな工学系の高等教育機関ECAMルイ・ド・ブロイが開校した。原子力など先端産業の集積が進む地元の強い後押しがあった。ノルマンディー地方の既存の工学系教育機関と連携し人材育成を図るという。
米国、中国に次ぐ原子力発電基数を誇り、電力の70%をまかなうフランス。資源に乏しく、日本同様にオイルショックで辛酸をなめた経験から、原子力発電と核燃料サイクルを推進し、エネルギー自給率を倍以上の50~55%に高めることに成功した。国際情勢が混迷を深める中、原子力推進に回帰しエネルギー安全保障を強化する同国の現状を報告する。(佐藤貞)
◆メモ/仏の原子力政策
・革新軽水炉「6基~14基」建設
・安全審査や許認可を効率化
・国が建設費60%を低利融資
・運開後40年間の収入を保証
電気新聞2026年7月9日





