前回は、歴史的・経営的な観点から、モビリティが電気自動車(EV)へ向かうことの必然性を論じた。今回はさらに視野を広げ、EVを取り巻く経済構造の根本的な転換について考えてみたい。20世紀を支えた「大量生産・大量消費・大量廃棄」というリニア型の経済モデルを、この先も維持できるのだろうか。答えは明らかに否である。EV産業は必然的に、サーキュラーエコノミー(循環型経済)へと進まざるを得ない。


 ◇三つの転換要因

 第一に、脱炭素である。エレン・マッカーサー財団によれば、再生可能エネルギーへのエネルギー転換で削減できる炭素量は排出全体の55%にすぎず、残り45%は製造・素材利用の改革が不可欠とされる。再エネでEVを走らせても、「作っては捨てる」構造のままでは目標達成は不可能だ。

 第二に、資源偏在である。リチウム、コバルト、ニッケルといった電池資源は産出国が限られ、供給は地政学的リスクに直結する。リニア型経済で大量廃棄を続ければ資源の逼迫は必至であり、リユース・リサイクルによる循環体系の構築なくして安定供給は望めない。

 第三に、経済合理性である。人工知能(AI)は無駄を排除し、資源のライフタイムバリュー(LTV)を最大化する方向に経済を駆動する。部材を使い切ることなく廃棄するリニア経済は、この合理性に反する。

 ◇サーキュラー・プラットホームの必然性

 この三つの制約条件を満たすには、従来の垂直統合型モデルでは限界がある。メーカー単独では設計から廃棄までを制御できず、車両・電池のライフサイクル全体を最適化できないからだ。必要なのは、データを軸に複数の主体が連携する「サーキュラー・プラットホーム」である。設計段階で循環性を考慮するメーカー、顧客接点でデータを収集するディーラー、所有と利用を分離するリース会社、用途転換を担うリパーパス事業者、資源回収を行うリサイクル事業者。これらを結びつける仕組みがなければ、循環は成立しない。

 全固体電池を例にとれば、その寿命は車両の2~3倍に及ぶと予想される。車両と同時に廃棄すれば価値の半分以上を失うが、車両用途終了後に定置用蓄電池として再利用し、最終的に資源を回収すれば、投資回収は十分可能になる。この「段階的活用」を実現するのがプラットホームの役割である。

 ◇エネルギー事業者にとっての機会

 このプラットホームは、エネルギー事業者に新しい事業領域を開く。再利用電池を統合した分散蓄電網、データ駆動型の需給調整サービス、AI最適化によるエネルギーマネジメント。電池を単なる車載部材から社会インフラ資源へと位置づけ直すことで、事業者は「電力販売者」から「循環資源のハブ」へと進化できる。

 ◇資源循環はすでに始まっている

 脱炭素、資源偏在、AI時代の合理性という三重の必然に突き動かされ、EV産業は循環型経済への構造転換を迫られている。

 欧州では2027年から「バッテリーパスポート」制度が義務化され、電池の製造履歴から炭素排出量まで、ライフサイクル全体の情報追跡が求められる。日本企業もこの国際潮流への対応が不可欠となっている。

 次回は、この循環を支える核心技術であるバッテリー性能の予測技術と、それによって広がる中古EV市場の可能性について取り上げる。

◆引用<エレン・マッカーサー財団の研究結果>

 エレン・マッカーサー財団は、再生可能エネルギーの推進だけでは、世界の二酸化炭素排出量の55%しか削減できないと指摘【国際】エレン・マッカーサー財団、サーキュラーエコノミー推進によるCO2削減を企業・政府に要求――Sustainable Japan

 残りの45%の削減を進めるために、鉄、プラスチック、アルミニウム、セメント、食品でサーキュラーエコノミーを進める【国際】エレン・マッカーサー財団、サーキュラーエコノミー推進によるCO2削減を企業・政府に要求――Sustainable Japan

◆出典

 2019年9月23日発表のリポート「COMPLETING THE PICTURE:HOW THE CIRCULAR ECONOMY TACLES CLIMATE CHANGE」に基づく――マテリアルエコノミクスとの協働により発表された研究

電気新聞2025年11月10日