世界的な産業用ソフトウエア大手の英AVEVA(アヴィバ)は9月4日、データ活用に向けた実践的なアプローチや、同社の戦略、国内外の最新事例、技術動向を紹介するイベント「AVEVA Day Japan」を都内で開催した。AVEVA本社から製品担当者の他、同社の顧客、パートナー企業などが約30の講演を実施。基調講演や電力・エネルギーの専門トラックであるEnergy transitionにて同社の顧客事例講演と技術動向を発表した。


基調講演/クリーンエネで存在感を
◇PG&E クイン・ナカヤマ氏
日本は石炭、天然ガスをはじめ、エネルギーの大部分を輸入に頼らざるを得ず、地政学的な影響を受けやすい。コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻などは記憶に新しい。エネルギー源に確実にアクセスし、適切な価格で入手できることは、業界を問わず成長の大前提となる。現在の世界情勢は、日本が経済発展していくには大変厳しい環境にあると言える。
1970~80年代の日本は非常に経済が好調だった。家電や自動車を買おうとすれば、まず日本メーカーの製品が候補に挙がった。ただ現在は韓国、中国などのメーカーが台頭し、日本の名前は出てこない。
個人的には、日本には経済面で再び支配的な地位を取ってほしい。洋上風力や地熱など、日本にも豊富に資源が手に入るクリーンエネルギーの分野では、それが可能だと考える。
温室効果ガス排出量ゼロの世界と、経済発展を両立させるには、技術をゼロからつくらなくても良く、パートナーと組んで必要な技術を取り込んでいけば十分だ。
この過程で、個々の文化に沿った形でテクノロジーを導入することが得意な日本のやり方は大いに役に立つだろう。

電力と通信の連携にらみ
◇東京電力パワーグリッド 工務部DX推進担当兼カイゼン・DX戦略室 栗原伸吾氏
東京電力パワーグリッド(PG)は、鉄塔5万基、電柱600万本、光ファイバーは10万キロメートル、変電所約1700カ所、スマートメーター約2840万個を所有している。民間の電力会社の設備量としては世界最大規模だ。これらのアセットの中にあるデータは、適切に使うことで大変な資産になりうる。
当社が描いているサイバーとフィジカルが融合した電力グリッドでは、人間の血管系と神経系の関係のように、電力と他のインフラ部分を密接に連携させ、自由自在にコントロールすることを目指す。
具体的な姿の一つが電力と通信の連携。人工知能(AI)による推論などは膨大な電力を使う。電力が余っている地方で電力を調達し、作業を進めれば効率的だろう。通信網が整備されれば、これは可能となる。
ただ当社が現在抱えているグリッド関連業務の生産性を高めない限り、こうした新たな事業に乗り出すことはできない。まずはデジタルツインで業務を可視化し、行動変容を促す必要があるだろう。
これは当社単体で進めることは難しい。AVEVAのデータ貯蔵技術をはじめ、関係する皆さんと一緒につくり上げていきたい。
DX加速で拡張性を高く
◇マイクロソフト Bilal Khursheed氏
人工知能(AI)を使い、どのように生産性を上げてコストを下げていくのかを考える時代にきている。送配電事業者の業務で言えば、電力の需要と供給のバランスを取ることはもちろん、再生可能エネルギー導入時のグリッド内の挙動などはAIが全て計算してくれる。
エネルギー業界がAIを活用する際に考えなければならないのが、非常に高いレベルで効率性が求められることと地政学的なリスクだ。電力を大量に使うデータセンターが増えていく中、サイバー攻撃に対する備えも非常に重要になった。
現在IoTなどの普及により、あらゆる場所で数多くのデータが取得されているが、それぞれ独立していて連携できない。今後は、これらのデータを連携できる機能が重要になる。こうした機能を一からつくれば10年以上はかかる。長年使われてきたテクノロジーと次世代のテクノロジーの併用が望ましいだろう。
AVEVAとマイクロソフトは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速し、エネルギー業界を拡張性があるものにしたいという思いが共通している。ともにデータの利活用を高度化していく。
エネ分野の実績を全社で
◇三菱重工業 エナジードメイン技術戦略室 石垣博康氏
三菱重工業では発電所などのプラント向けにインテリジェントソリューション「TOMONI(トモニ)」を展開している。このソリューションは遠隔支援、プラント性能改善、保全のデジタル化の3機能を核としていて、国内外で利用頂いている。TOMONIにはAVEVA PI Systemが組み込まれていて、2016年の導入から細かい整備やバージョンの刷新を経てきた。現在では80万点以上のタグを消費し、3万枚余りのパイビジョン画面を使用している。
エネルギー分野での活用実績を基に26年4月以降、AVEVA PI Systemを全社的に利用し始めた。デジタル基盤「ΣsynX(シグマシンクス)」として事業部門横断で活用を進めている。主力のガスタービン事業での水素利活用に向けて兵庫県の高砂製作所に「高砂水素パーク」を整備したが、この拠点の水素製造や貯蔵における社内監視にもAVEVA PI Systemを活用している。
近年は生成AI(人工知能)の成長と普及が爆発的に進んでいる。TOMONIでもAI利活用に向けた検討を行っている。AIエージェントをパイシステムと連携させて、様々な条件をつけたデータ収集や定点監視などを簡単に行う将来像を描いている。
顧客の要望すぐに具体化
◇Tech Mahindra Limited エンジニアリングサービス Ravi Yellajosula氏
様々な産業でDX化が進むが、このままではデジタルトランスフォーメーション(DX)関連で消費される電力の需要に対し、供給が全く追いつかなくなる。2050年までにDX関連の電力消費がHVAC(空調システム)の消費を上回るといった予測もある。
ただ同社ではこの問題をデジタルや人工知能(AI)の技術を活用してエネルギー分野を再構築する大きなチャンスだと捉えて課題解決に臨んでいく。
インドのプネーにAVEVAと共同でイノベーションセンターを立ち上げた。AVEVAのプラットフォームが顧客の課題把握や、45以上のソリューションアクセラレーター構築に活用されている。この活用で顧客との協業開始時に課題の把握などをゼロから始めることなく、すぐに具体的なソリューションの提供を開始できている。
具体的な事例として中東の石油ガス大手グリーンフィールドとのプロジェクトを紹介したい。現場の整備と並行してデジタルツインの構築を進めたいという要望に、AVEVAのプラットフォームの力を借りて応えることができた。ソリューション構築のスピードや効率性など主要なKPI(重要指標)において過去のプロジェクトよりも3~4割の改善がみられた。
EMS連携図る推進力に
◇早稲田大学 理工学術院総合研究所 伊藤章雄氏
我々はスマートエネルギーマネジメント連携システムについて検討を進めている。工場などの産業用エネルギー・マネジメント・システム(EMS)を周辺街区の再生可能エネルギー発電最適化に活用しようというアイデアで、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の採択も頂いた。現在は課題洗い出しに向けたテストベッド構築を行っている。
EMS連携の実装にはデータ定義や情報モデルの標準化が必要だ。結実すれば国内だけでなく国際標準に提案することも見込め、国際競争力の強化にもつながるだろう。
テストベッドの設計は各事業者の工場と、それ同士をつなぐデータ共有プラットフォーム、アグリゲーター事業者の3つに分けられる。このうち工場のプラントおよびエネルギー消費や二酸化炭素(CO2)排出を最適化する上位レベルをそれぞれ模擬するモジュールにはAVEVA PI Systemを導入した。
現在は工場建屋の空調を想定し、太陽光発電における熱源機の余剰電力を模擬してデータを収集している。オンプレミス環境での動作にとどまっているが、今後はAVEVA CONNECTを活用し、事業者間で主権を保持しながらデータ共有する試行も予定している。
電気新聞2025年10月8日





