
発電所の運営ノウハウを学習したAI(人工知能)が、膨大な社内ナレッジ(知見)からトラブル解決の最適解を導き出す。そんな取り組みをJERAが加速させている。過去の不具合事例が入った約2万2千ファイルを対象に2024年11月からAI利用を開始。発電所員が情報取得や要約、周知にかける時間を短縮し、業務効率化につながった。9月以降、対象ファイルの拡大に乗り出す。優先度が高いナレッジデータを4段階で連携させる方針だ。
「目的のドキュメントを見つける」「それを上から下まで一通り目を通す」「その中から知りたいことを探し当てる」。トラブルに限らず、過去の事例を振り返る際に、こうしたアプローチを取ることは少なくない。それが手間なら他の作業員に聞いたり、確認したりする選択肢もある。だが知っている人を探すにも、それなりに労力がかかるケースはある。現場では、あらゆることに精通した熟練者の定年退職が相次ぐ。

「もう『全部AIに聞いてください』という世界にしたい」。横山将宏・デジタルパワープラント開発ユニット長は理想像の実現に向けて、社内ナレッジ活用の敷居を下げることが重要だと強調する。その期待を背負って導入されたのがAIエージェントの「Emily」(エミリー)だ。「Energy(エネルギー)」「Maintain(支える)」「Intelligence(知性)」の頭文字を取って命名。容姿も由来などの情報からAIがイメージし、作成したという。
●根拠を示す
アンモニア設備でガス検知警報があったものの、漏えい部の特定が難航している――。例えばこんなケースで活用すると、これまでリーク(漏れ)があった機器を示してくれるだけでなく、回答に活用した報告書も添付し、根拠やデータを確認できるシステムを構築した。回答に対して「グッド」「バッド」を評価する仕組みも設けた。その理由をコメント欄に記載できるようにし、間違った回答はどんどん修正してもらう。
利用開始後、千人規模で行ったアンケート調査では73%が「活用できる精度」と回答した。効果も測定した。ある不具合事例の取得・要約・周知にかかった時間は50分43秒だったが、エミリーを活用した場合は2分27秒まで短縮できた。「質問に回答できなかった場合、かなり怒られます。分からないことを全て答えられるよう徹底的に調べ尽くしてください」。こうした厳しい条件を課したこともあるが、業務削減効果は最大95%に上った。
一方、利用者が思うように伸びておらず、定着に向けた課題もある。そもそも不具合事例はトラブルを起点に調べ始めることが多いため、活用頻度はそれほど高くない。アンケート調査では連携データの拡大を望む声が寄せられており、JERAは今年度内に対象ドキュメントを増やす方針だ。
●精度を向上
優先度の高いナレッジデータから4段階で順次連携を進める。まずは9月以降、設備仕様変更時に参考にする「技術検討資料」などを対象ドキュメントに加える。その後、図面といった非テキストデータや改善事例を集めた「Kaizen道場」の情報も結びつける。配管の写真など関連性の高いデータは添付できるようにする。指定条件に合わない検索結果が混ざる課題も指摘されており、精度を高めるための修正を加える。
エミリー導入から半年以上が経過したが、現在の活用者は新しいものを積極的に取り入れる「イノベーター」「アーリーアダプター」と呼ばれる層に集中している。業務を丸投げできるという過大な期待を生成AIに寄せ、その結果に失望し、利用から離れていくパターンも目立つようだ。「そもそも生成AIでどんなことができるのか、何が魅力なのか、情報発信が必要だ」。横山氏は利便性の向上に加え、AIリテラシーを身に付けてもらうことが欠かせないと主張する。
電気新聞2025年8月18日





