発電実証――。次世代のエネルギー源として実用化への期待が高まる核融合において、今最も注目を集める言葉だ。これを世界に先駆けて2030年代に実施することを目指し、様々なプレーヤーが走り始めている。実用化の鍵を握るとされる発電実証について、国や事業者が議論・計画する内容を整理し、その詳細を明らかにする。
発電実証は、核融合エネルギーの実現に向けた大きな「節目」と位置付けられる。核融合による発電はまだ世界の誰も実現しておらず、これを達成できれば実用化、さらには商用化が一気に近づく。
達成による効果も大きい。核融合の先進地として、国内における産業化の促進、日本が優位性を持ったサプライチェーンの構築、世界からの技術・人材の集積、国際標準化の主導などが期待できる。世界初という社会的なインパクトの大きさ故に、スタートアップなど民間の資金調達環境にも追い風となることが予想される。
こうした中、24年の核融合分野を振り返ると、発電実証の実現に向けた動きが急激に加速した一年だったと言える。2月には、自民党内にプロジェクトチームが設立。従来、50年頃を目標としていた国の発電実証時期を30年代に前倒しすることなどを求める提言を取りまとめ、6月に政府へ提出した。
政府も6月、前倒しや達成に向けた工程表作成などを盛り込んだ「24年度統合イノベーション戦略」や「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」を閣議決定。30年代の発電実証を目指すことを国の正式な目標と位置付けた。
8月には内閣府の有識者会議において、この目標の織り込みを念頭に、核融合に関する国家戦略の改定に向けた議論を開始。文部科学省核融合科学技術委員会傘下のタスクフォースでは、核融合原型炉による発電実証時期の前倒しに向けた具体的な検討も始めた。
では、なぜ政府は発電実証を急ぐのか。背景にあるのは、将来的な核融合産業の主導権獲得に向けた国際的な競争の激化だ。
◇各国がしのぎ
世界の核融合スタートアップの大半が集中する米国では、一定の期限と技術的な目標を設定し、達成状況に応じて段階ごとに資金支援の対象を絞り込む「マイルストーンプログラム」を展開。民間主導での30年代発電実証達成に向け、競争環境の構築による技術開発を加速させている。
英国は、発電実証を行う原型炉に相当する「STEP」を国主導で40年までに建設する計画。既に実施主体を設立し、石炭火力発電所の跡地を建設地として活用することも決めた。
中国も30年代を目指し、政府が膨大な予算を投入。独自の実験炉や大規模試験施設群の整備を進めている。
国内に目を戻すと、24年は民間でも動きが加速した。11月には30年代の発電実証達成を目指し、京都フュージョニアリングをリーダーとする産学連携プロジェクト「FAST(ファスト)」が発足。これまで核融合炉の主要機器の開発・製造などを中心事業としていたスタートアップの同社が、発電実証にも乗り出した。
国内スタートアップでは、Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)とEX―Fusion(エクスフュージョン)も、24年以前から30年代発電実証に相当する計画の実現に向けて事業を進めている。
◇政府の本気度
国の原型炉計画を含め、国内でも30年代の発電実証を目指す主体が着実に増え始めた。こうした状況を政府や業界団体も歓迎する。
城内実科学技術政策担当相は24年11月の会見で、FASTの発足を意欲的な取り組みと評価した上で、30年代という目標の達成に向けて官民の連携を促進し「一刻も早い社会実装を目指していく」と強調した。
フュージョンエネルギー産業協議会の事務方トップを務める中原大輔・実行委員長も、「様々な選択肢を様々な方が提示することが、世界で勝てる核融合産業の創出につながる」との認識を示す。
ただ、発電実証を考える際に留意すべきことがある。それは、核融合における発電実証の技術的な定義が定まっていないということだ。
電気新聞2025年1月29日
>>電子版を1カ月無料でお試し!! 試読キャンペーンはこちらから